大谷翔平はMLB史に残る選手でしかもまだ先がある 「あと9回!」の意味と米メディアの反応 (2ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【来季以降も戦力充実 21世紀初の連覇への挑戦】

 もっともシャンパンファイトではなく、正式な優勝会見での大谷の言葉はいつもどおりの謙虚さにあふれ、周囲の人々への感謝の気持ちで満ちていた。1年を振り返ってと問われると、「最後まで長いシーズンを戦えたし、このチームに来て1年目で(世界一になれて)すごく光栄だなと思います」と切り出した。

 思い起こせば昨年12月の入団会見、勝つことの優先順位は? と聞かれ、「僕自身の優先順位は、契約形態から分かるように一番上。野球選手としてあとどれくらいできるか誰もわからない。勝つことが僕にとって今、一番大事なこと」と説明していた。それをすぐに実現したのだから、本当にいい初年度だったと言える。

 加えて、ドジャースを選んだ理由について問われると、「勝利への明確なビジョンがあるから。大事なのは全員が勝つために、同じ方向を向いていること。オーナーグループ、フロント、チームメート、ファン、みんながそこに向かっている」と語ったが、まさにそのとおりだった。シーズンを通してケガ人が出て苦しい時期も少なくなかった。だが、それをみんなでカバーした。

 大谷は「全体的にケガ人が出たシーズンだったと思いますし、代わりに入ってきて、プレーした選手がカバーする試合が多かった。逆転が多いスタイルというか、みんながどれだけ点を取られてもあきらめずに、ブルペンもつないでいくという気持ちが勝ちにつながったのだと思います」と振り返った。ムーキー・ベッツやフレディ・フリーマンのような偉大な選手とプレーできたが、「自分の野球観、野球技術を上げてくれるようなすばらしい選手たち。フレディとムーキーはもちろんですけど、1番から9番まで自分の仕事をプロフェッショナルにこなしていく選手たちが集まっていた」と仲間を称えている。

 ちなみにワールドシリーズで連覇を達成したチームは、直近では1998年から2000年のヤンキースだ。21世紀になってからは一度もなく、すでに書いたようにポストシーズンを勝ち上がるには実力だけでなく、運も必要。連覇はとても難しいが、ひとつ言えるのは、来年のドジャースは、今年よりも強くなる可能性が高いということだ。

 今季は、大谷も言っていたようにケガ人続出で万全ではなかった。特に先発投手陣の離脱が相次ぎ、エースのタイラー・グラスノーと将来の殿堂入り投手、クレイトン・カーショーはポストシーズンを全休した。しかしながら来季は大谷が投手として復活するし、2年目の山本由伸はシーズンを通してローテーションを守るだろう。千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希も加わるかもしれない。ダスティン・メイ、トニー・ゴンソリンといった生え抜きの先発投手も長いリハビリから復帰してくる。

 加えてMLBのFA市場では、長期の大型契約が必ずしも成功するとは限らないが、ドジャースは賢明に資金を投資している。2027年時点でも契約が続く選手には、グラスノー、山本、ベッツ、フリーマン、大谷、そして捕手のウィル・スミスがいる。さらに、大谷の大型契約の後払い方式は、チームにとってより柔軟な財政運用を可能にしている。このオフシーズンには、ポストシーズンでも活躍した投手、ジャック・フラーティやウォーカー・ビューラーがFA資格を得るが、コービン・バーンズ(ボルティモア・オリオールズの先発投手)のような大物選手を獲得するチャンスがあるかもしれない。

「あと9回、あと9回!」という大谷の言葉。デーブ・ロバーツ監督はこの発言について聞かれると、「これまでずっと相当のプレッシャーと戦ってきたから、まだ考えたくない。今はこの瞬間を楽しみたい。でも、来年春のキャンプが始まったら、それが目標になるのは間違いない」ときっぱりと話している。

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

大谷翔平の全試合を現地観戦する「ミニタニ」2023

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