筒香嘉智がアメリカで感じた相手へのリスペクト。一流選手になるには人格者であるべきか、「スポーツマンシップ」を考える (3ページ目)

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Jiji Photo

【世界で羽ばたいていくためには...】

 野球の世界で言えば、アメリカには「アンリトゥンルール(unwritten rule)」がある。いわゆる「不文律」で、一定以上の点差がついた場合は犠牲バントや盗塁をしないことや、過度なガッツポーズといった相手を挑発していると取られ兼ねない振る舞いを控えるというものだ。日本ではこの意識が薄く、国際大会になると不文律に反し、相手から抗議や報復を受けることが度々ある。

 近年はアメリカでも「アンリトゥンルール」のあり方が議論されているようだが、少なくとも日本の選手や指導者は、なぜこうした考え方があるのかを知るべきだと中村理事は語る。

「日本では、『最後の最後まで全力を尽くすのが尊重、礼儀である』という話になります。一方、アメリカでは『こんなに大差がついたら、相手のケツの毛まで抜くようなことはしないほうが礼儀を尽くしている』となる。考え方として、どちらもあり得ると思います。でも、野球発祥の地の文化について、腹落ちしておくことは大事です。

 なぜなら、ほとんどのスポーツは国内の大会だけでなく、世界とつながっています。国際大会に出場すると、国内の文化やルールを知っているだけでは通用しないことがある。それを知らないばかりに恥をかいたり、乱闘になったりするので、相手についても思いを馳せる。それがスポーツのグローバリズムです。海外について知っていくことは、スポーツをするひとつの意義だと思います」

 筒香は海の向こうに活躍の場を移して以降、メジャーリーガーたちの審判への姿勢に日本との違いを感じると明かす。

 たとえば、ハーフスイングをストライクとされた場合、打者は強い口調で異議を唱えることがある。だが、次の打席で一塁に出塁すると、「さっきは悪かった。言いすぎた」と謝る場面を、筒香は一塁手として何度も目撃した。

「メジャーとマイナーを経験したなかで、本当にリスペクトが強い国だと感じています。日本の選手はリスペクトがないというわけではないですが、日本で経験した時と比べると、アメリカの選手たちは自分の意見をはっきり言う。同時に、周りに気遣いをするというか、本当に心から困っている人に手を差し伸べるという風習がすごく強いと感じます」

 中村理事によると、アメリカ英語には「He is a good sport」というフレーズがある。「彼は信頼に足る人間だ」という意味だ。

「スポーツマン」とは単にスポーツをする人を指すのではなく、本来、もっと深い意味が込められている。

 なぜ、スポーツマンシップは大事なのか......。筒香がメジャーリーグで感じたことには、日本人が世界で羽ばたくために重要なエッセンスが含まれている。

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