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マネーボールはもう古い?低予算アスレチックスの新戦略

  • 福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu photo by Getty Images

 今シーズンもオークランド・アスレチックスが絶好調です。6月11日現在、40勝26敗・勝率.606とリーグで唯一勝率6割以上をキープし、激戦区と言われているア・リーグ西地区で強豪チームを抑えて首位に立っています。他球団に比べてアスレチックスの予算は少なく、2012年のチーム総年俸は30球団中29位、2013年は26位、そして今年は27位。限られた予算で遣り繰りせざるを得ないため、毎年のように主力選手を放出しています。しかし2012年、2013年ともに地区優勝を果たし、今年も3連覇しそうな勢いです。なぜ、アスレチックスはこんなにも強いのか――。今回はアスレチックスの強さの秘訣について触れたいと思います。

現在チームトップの7勝を挙げているスコット・カズミアー現在チームトップの7勝を挙げているスコット・カズミアー アスレチックスといえば、まずは誰もが「マネーボール」という単語を思い浮かべるでしょう。2000年代前半にビリー・ビーンGMが、のちに「マネーボール」と呼ばれるセイバーメトリクス(※)を導入したドラフト戦略や若手育成を推進したことで、アスレチックスはプレイオフの常連に返り咲きました。しかし、そのような戦略は10年以上前の古い話です。映画化されて日本でも話題となりましたが、他球団も次々とその戦略をマネたので、すでにメジャーの世界でマネーボールの時代は終わっています。

※セイバーメトリクス=野球におけるデータを統計学的見地から客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える分析手法。

 現在のアスレチックスの強さは、マネーボールが主軸ではありません。今、ビリー・ビーンGMはチーム作りにおいて、「重要なことは、ふたつある」と言っています。まずひとつは、「トレード」。そしてもうひとつは、「再生プロジェクト」です。では、この2点について、具体的に説明していきましょう。

 メジャーリーグのどの球団でも、トレードの際に心がけている点は、「選手の市場価値が高いときに売れ」ということです。アメリカには、「選手のピークが過ぎる前に放出する」という一種の不文律みたいなものがあります。もちろん、主力選手の放出が可能となるには、それに代わる若手選手がファームで育っていなければなりません。しかしながら、アスレチックスのファームの充実度は、実のところメジャー最低クラスの評価なのです。ではなぜ、主力選手を次々と放出できるのでしょうか。それは、アスレチックスがトレード分析能力に秀でているからです。

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著者プロフィール

  • 福島良一

    福島良一 (ふくしま・よしかず)

    1956年生まれ。千葉県出身。高校2年で渡米して以来、毎年現地でメジャーリーグを観戦し、中央大学卒業後、フリーのスポーツライターに。これまで日刊スポーツ、共同通信社などへの執筆や、NHKのメジャーリーグ中継の解説などで活躍。主な著書に『大リーグ物語』(講談社)、『大リーグ雑学ノート』(ダイヤモンド社)など。■ツイッター(twitter.com/YoshFukushima

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