【MLB】イチローがヤンキースとの再契約を決めた
「本来あるべき思い」

  • 小西慶三●文 text by konishi Keizo
  • photo by AP/AFLO

ヤンキースと2年契約を結んだイチローヤンキースと2年契約を結んだイチロー イチローはメジャー年間最多安打262本の記録保持者だ。2001年リーグMVP、2007年オールスターMVPを獲得し3度のシルバースラッガー賞にも輝いた。球宴出場、ゴールドグラブも10季連続となれば最後に望むのはワールドシリーズの優勝リングくらいだろう。

 イチローは12年のメジャー生活で2606安打を放っている。米殿堂入りの目安となる通算3000安打まであと394本。ヤンキース移籍後のペースを今後も維持できればピンストライプのユニホームで大台に乗る。金字塔はメジャーきっての名門球団で達成し、華々しい球歴の最終章を飾りたい――。

 ヤンキースとイチローが新たに2年契約を結んだことについて、日米メディアの多くがそんなふうに憶測していた。野球選手として数え切れないほどの勲章をそろえたイチローの、最後のコレクションがワールドシリーズ優勝リング。そして注目の集まる舞台で節目を迎えることが異能のスーパースターには相応(ふさわ)しい。シンプルで分かりやすい推論。だがイチロー自身からワールドシリーズ優勝や3000安打を目指すとのセリフは一度として聞いたことがないし、そういったメディアが本人に彼らの推測を質(ただ)した形跡もない。いったいなぜ、このような報道になるのだろう。

 彼はそれぞれの状況に応じた最善を積み重ね、数々の記録を打ち立ててきた。山頂をきわめるための要点は山頂を見ないことであり、細かい準備と高い集中力で足元を固めなければならない。そんな意味の言葉で日々の現実を客観視する大切さを説き、地道な努力を実践してきたイチローが、まだ400本ほどもあるメジャー3000安打を具体的な目標に置くとはとても思えない。ワールドシリーズ制覇にしても同じだ。そもそもワールドシリーズ優勝を一番に目指すのならばヤンキース以外の選択肢が妥当ではなかったか。

 来季ア・リーグ東地区はメジャー屈指の最激戦区となる。2012年ナ・リーグのサイ・ヤング賞投手、ロバート・アラン・ディッキーをメッツから、快足遊撃手ホセ・レイエス、本格右腕先発ジョシュ・ジョンソンらをマーリンズから獲得したブルージェイズが対抗馬の筆頭だ。最下位に沈んだレッドソックスも救援陣を中心に手厚く補強し、宿命のライバルに8個も貯金を献上した2012年のリベンジに燃えている。昨季終盤、ヤンキースを苦しめたオリオールズとレイズは主力がほぼそのまま残るうえに、伸びしろの大きな若手を数多く抱える。

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