【MLB】いよいよデビュー。ダルビッシュは野茂を越えられるか? (2ページ目)
そして野茂投手につづき、強烈なインパクトを残したのが、やはり伊良部秀輝投手でしょう。1996年オフにメジャー移籍騒動を起こして、1997年5月にロッテからサンディエゴ・パドレスを経由し、本人の希望どおりニューヨーク・ヤンキースに入団。野茂投手の活躍により、ジョージ・スタインブレナー・オーナーが「是が非でもヤンキースにも日本人スターが欲しい」と熱望したこともあって、入団会見は全米中の注目を集めました。
伊良部投手はマイナーで調整登板したあと、7月10日、本拠地ヤンキースタジアムで先発デビューしました。アメリカの7月といえば、4大プロスポーツのなかで野球しか行なわれていません。つまり、全米中が野球だけに注目する時期なんです。しかもその日は、オールスターが終わって、後半戦最初のゲームでした。よって盛り上がりもすごく、ヤンキースタジアムには51000人以上の大観衆が集まりました。そこを颯爽と、栄光のピンストライプのユニフォームに身を包んだ伊良部投手が、マウンドに上がったのです。真っ青な空の下、灼熱の太陽に照らし出された伊良部投手の姿は、まるで映画のワンシーンのようでした。
全米の期待に応えるかのように、伊良部投手はデトロイト・タイガース相手に圧巻の投球を披露します。初回、1番バッターのブライアン・ハンターをショートゴロに打ち取ったあと、2番のボビー・ヒギンソン、3番のトラビス・フライマンから連続三振を奪って三者凡退で終えました。すると、伊良部投手に対し、なんと初回からスタンディングオベーションが起きたのです。こんな光景は、かつて見たことがありませんでした。
さらに4回も3人すべてを三振に打ち取るなど、奪三振ショーを見せた伊良部投手は、7回途中を5安打2失点9奪三振で降板。試合も10対3で勝利し、デビュー戦を白星で飾りました。試合後、興奮したスタインブレナーが「和製ノーラン・ライアンだ」と絶賛したのを、よく覚えています。
そして野茂投手、伊良部投手と並び、日本人初先発で思い出すのは、鳴り物入りでボストン・レッドソックスに入団した松坂大輔投手です。2007年4月5日、敵地カンザスシティでのロイヤルズ戦に、開幕3戦目で松坂投手はメジャー初先発を果たしました。この日は13時10分の試合開始ながら、気温2.2度という寒い中でのゲームで、立ち上がりの1回、松坂投手はいきなり1番のデビッド・デヘスースにセンター前ヒットを打たれてしまいます。しかし、その後はリズムをつかみ、4回には2番からの上位打線に対し、3者連続三振を奪うなど本領を発揮。結局、7イニングを6安打1失点10奪三振の好投で、デビュー戦勝利を飾りました。メジャー初先発での勝利は、1997年の伊良部投手、1998年ニューヨーク・メッツの吉井理人投手、2002年ドジャースの石井一久投手についで日本人4人目。松坂投手は「ビックリするぐらい普通に投げられた」と試合後に語っていました。
初先発の懐かしい思い出を振り返ってみましたが、ダルビッシュ投手はどんなメジャーデビューを飾ってくれるのでしょうか。イチロー選手との対決など、これまでの日本人初先発とは、また違った楽しみがあります。また、ダルビッシュ投手がメジャーでの記念すべき第1球目に、どんなボールを投げるのかも注目です。松坂投手は「キャッチャーが変化球のサインを出したらクビを振る」と言って、第1球目にストレートを投げました。2012年4月9日、レンジャーズ対マリナーズ戦――。野茂投手や伊良部投手らの初先発のときと同じく、我々にとっても忘れられない日となることでしょう。
著者プロフィール
福島良一 (ふくしま・よしかず)
1956年生まれ。千葉県出身。高校2年で渡米して以来、毎年現地でメジャーリーグを観戦し、中央大学卒業後、フリーのスポーツライターに。これまで日刊スポーツ、共同通信社などへの執筆や、NHKのメジャーリーグ中継の解説などで活躍。主な著書に『大リーグ物語』(講談社)、『大リーグ雑学ノート』(ダイヤモンド社)など。■ツイッター(twitter.com/YoshFukushima)
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