【高校野球】「下剋上球児」の奇跡は終わらない 廃校寸前、16年連続初戦敗退だった昴学園が三重王者として迎える夏 (3ページ目)
春の三重大会を制した昴学園の選手たち photo by Takahiro Kikuchiこの記事に関連する写真を見る 昴学園のグラウンドは、地域住民の使う道路に面している。郁島は地域住民から頻繁に声をかけられると証言する。
「最初は横浜に帰りたい思いもあったんですけど、大台町の皆さんが『頑張れよ』と声をかけてくださって、元気づけられました。今は自分にとって特別な場所になりましたし、将来は大台町に住むのもいいなと思っているくらいです」
客観的に見れば、順調に階段を上がっているように感じられる。それでも、東監督は絶えず葛藤を抱えている。苦笑交じりに、こうこぼした。
「いや、もう常に『下剋上』がついて回りますよ。俺なんか『下剋上』って言ってもいないのに」
そもそも「下剋上」というフレーズは、2018年夏に甲子園出場した白山の主将・辻宏樹(現・相可高校監督)が発したものだった。
8年前の快挙にしても、東監督は「なぜ白山が甲子園に行けたのかわからない」と言い続けていた。昴学園でも甲子園に執着する理由は、「まぐれではなかった」と証明するためでもある。
自分に自信がなかった生徒が、野球をきっかけに社会で生き抜く力を養っていくこと。高校野球を通して地域が活性化すること。そういったやりがいはある。一方で、なかなか甲子園まで手が届かない現状に、もどかしさを覚えることも少なくない。東監督は「上を見たらキリがないんですけどね」と笑った。
そんな時、東監督の心の支えになる言葉がある。親交のある高嶋仁さん(元智辯和歌山監督)がサイン色紙にしたためた、この言葉だ。
「遂(と)げずばやまじ」
その心を東監督が説明する。
「一度決めたら、やり遂げるまでやめるなという意味です。この言葉を見ながら、いつも自問自答していますよ。やっぱり、コツコツ積み重ねていくしかないんかな」
今夏の三重大会、昴学園は激戦ブロックに組み込まれた。初戦(2回戦)の相手は宇治山田商で、昨夏に準々決勝で敗れた因縁がある。ほかにも津田学園、四日市、近大高専といった強豪がひしめく「死のゾーン」である。
それでも、この難関を乗り越えることに価値がある。高校野球界に燦然と輝く星団を目指して。昴学園の挑戦が始まろうとしている。
著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。
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