検索

【夏の甲子園2025】プロ注目左腕の未来富山・江藤蓮がまさかの8失点KO それでもスカウトの評価が揺るがないワケ (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 キャッチボールの時点で、素材のよさは際立っていた。奥村頼人(横浜)ら甲子園出場経験のある有望左腕が、江藤のボールを受けるたびに「えぐっ!」と驚嘆する。軽い力感の腕の振りなのに、ボールはぐんぐん勢いを増すようにグラブを叩いた。

 参加選手同士の紅白戦では、やはり甲子園出場経験のある猛者6打者をねじ伏せた。ホームベース付近でも勢いを失わない好球質、空振りを奪えるカットボールはインパクト十分だった。

【このままでは上では通用しない】

 身長180センチ、体重84キロのたくましい骨格を絶賛するスカウトもいた。この実力を甲子園でも披露できていれば、結果は違ったものになっただろう。

 江藤が甲子園で投じたストレートは、スカウト陣が証言したように本来の江藤のボールではなかった。打者のスイングしたバットの上を通過するような、爽快なストレートは限られた。

 試合後、江藤はこんな実感を明かしている。

「序盤はよかったんですけど、3〜4回から真っすぐが高めに浮いたり、勢いがなくなってしまって。コースが甘くなって、打たれてしまったのは敗因だと思います」

 6回途中で交代が告げられた江藤は、その後は右翼に回ってプレーした。そして、最後に見せ場が回ってきた。

 未来富山が4点を追う9回裏、二死二塁。左打席に4番の江藤が入った。テレビ中継のモニターで確認すると、江藤が小刻みに口を動かしているのが見えた。明らかに、応援団が演奏する曲に合わせて口ずさんでいる。その直後、江藤は中前に安打を弾き返し、1点を還した。

 試合後、江藤にこの場面について振り返ってもらうと、こんな答えが返ってきた。

「打てなかったらおしまいということはわかっていたんですけど、いつもどおり応援に駆けつけてくださった方々の応援に乗って、気楽に打席に立てました。だから、ああいう結果につながったのかなと感じます」

 もしかしたら、江藤にとってはこの日、初めて勝負を楽しめた場面だったのかもしれない。

2 / 3

キーワード

このページのトップに戻る