夏の甲子園の「熱盛」をヒロド歩美が振り返る 『熱闘甲子園』と吉田輝星の弟・大輝の物語 (3ページ目)

  • 石塚 隆●取材・文 text by Ishizuka Takashi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【名選手の弟たちが"兄超え"を目指した】

ーーいろいろな高校を取材してきたと思いますが、とくに印象深かった出会いなどはありましたか。

 今年はかつて取材した高校球児の弟たちを取材するご縁があったんです。金足農業(秋田)の吉田大輝くん(兄・吉田輝星選手/オリックス)と高橋佳佑くん(兄・佑輔さん/同校現コーチ)、岡山学芸館(岡山)の丹羽知則くん(兄・淳平さん)、神村学園(鹿児島)の今岡拓夢くん(兄・歩夢さん)、大阪桐蔭(大阪)の徳丸快晴くん(兄・天晴さん/智辯和歌山OB)。

 他の学生とは違い、兄を超えるといったモチベーションがあるのは非常に興味深いものでした。なかでも吉田大輝くんは、意外にも金足農業に入学するのを悩んでいたそうなんです。それでも1学年上でキャプテンの高橋佳佑くんの誘いがあったり、兄を超えるという強い気持ちを持って最終的には入部した。

 2018年に、兄の輝星投手が決勝で敗れた時、弟の大輝くんがスタンドで涙を流す姿が『熱闘甲子園』のラストシーンとなりました。大輝くん本人は夏前のインタビューで、「あの夏自分の涙で終わって、今年甲子園に戻ってきたのは何かドラマのように感じます」と、『熱闘甲子園』スタッフが大喜びする言葉を発してくれたのを今でも覚えています。

ーーあとはセンバツ優勝後に取材されていた健大高崎(群馬)が残念ながら2回戦で敗退しました。

 残念でしたけど、それ以上に印象深かったのが、敗退後に宿舎で聞いた箱山遥人選手の言葉でした。箱山くんは「高校野球ができなくなるのが悲しい」と。ああ、これは全国の球児の誰もが思う言葉だなって強く感じたんです。

 もちろん負けた悔しさもあるでしょうけど、このチームでこの仲間と一緒に野球ができるのはこれで最後。あと1年残っている2年生も号泣している。今のこの瞬間、このチームでの高校野球が終わってしまう涙が多いんだなってことを、箱山くんの言葉で思いました。

ーー今大会というか、高校野球を象徴するような言葉ですね。

 そうですね。一番シンプルでストレート。心に響きました。

ーー健大高崎もそうですが、大阪桐蔭など強豪校が早い段階で敗退するのが今大会は目立ちました。

 これもまた甲子園なんだって思いました。毎年のように"優勝候補"と名前が挙がる学校がありますが、何が起こるかわからない。ただ、どの高校も全国大会まで勝ち上がっているので当然実力はあると思いますし、決して波乱などではないと私は思っています。甲子園大会を知れば知るほど"優勝候補"という言葉は存在しないんだと感じています。

後編<高校野球の「裏方」をヒロド歩美が取材し続けるワケ 夏の甲子園・滋賀学園のダンスへの思い>を読む

【プロフィール】
ヒロド歩美 ひろど・あゆみ 
1991年10月25日生まれ。兵庫県宝塚市出身。早稲田大学国際教養学部卒業後、2014年に朝日放送テレビ(ABCテレビ)入社。2016年に『熱闘甲子園』のキャスターに就任。その後は『サンデーLIVE!!』『芸能界常識チェック!〜トリニクって何の肉!?〜』『芸能人格付けチェック』などに出演。2023年からフリーとなり、現在まで『報道ステーション』のスポーツキャスターを務めている。

著者プロフィール

  • 石塚 隆

    石塚 隆 (いしづか・たかし)

    1972年、神奈川県出身。フリーランスライター。プロ野球などのスポーツを中心に、社会モノやサブカルチャーなど多ジャンルにわたり執筆。web Sportiva/週刊プレイボーイ/週刊ベースボール/集英社オンライン/文春野球/AERA dot./REAL SPORTS/etc...。現在Number Webにて横浜DeNAベイスターズコラム『ハマ街ダイアリー』連載中。趣味はサーフィン&トレイルランニング。鎌倉市在住

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