【夏の甲子園】健大高崎を支える通算本塁打2ケタの控え選手たち 野球エリートが直面した過酷な現実 (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 今夏は白石にとって大きなチャンスだった。群馬大会準々決勝の高崎経済大付戦では高校通算11号となる本塁打を放っている。準決勝、決勝では「8番・センター」として先発メンバーに名を連ねた。

 だが、安打は本塁打の1本だけ。甲子園初戦の前夜、首脳陣から発表された先発メンバーに、白石の名前はなかった。代わりにセンターに入ったのは、1年生の石田雄星だった。白石は眠れない夜を過ごすことになる。

「悔しかったです。(群馬大会)決勝で打っていたら出ていたのかな......とか、夜は引きずってしまいました」

 だが、試合当日になると気持ちを切り替えた。

「全員が同じ熱意をもって、勝ちたい思いをもってやっているのに、誰かが試合に出られないことを引きずっていたらチームは一丸になれません。もちろん試合には出たいし、勝ちたいです。でも、スタメンが決まった以上は、あとは自分が勝つために何をすべきかを考えて、準備をするしかないですから」

 試合終盤、白石はレフトの守備固めに入った。8回裏の健大高崎の攻撃、一死一塁の場面で白石はネクストバッターズサークルにいた。その時点で1点をリードしていた健大高崎がそのまま逃げきれば、9回裏の攻撃はない。この試合で白石が打席に入る、最初で最後のチャンスだった。

 打席の森山が放った打球はショート正面のゴロになり、おあつらえむきの併殺コースになった。ところが、一塁への送球がそれて併殺崩れに。白石まで打順が回ってきた。

 白石は神妙な表情で、打席に立てた感慨を口にする。

「センバツでは打席に立てなかったので、立ちたいな......と思っていたんです。神様が立たせてくれたのかな......」

 結果は初球を打ってライトフライ。だが、白石は「悔いないように振れてよかったです」と振り返る。これが野球人生最後の打席になるかもしれない覚悟をもって、打席に臨んでいた。

「大学では野球をやめて、英語を勉強したいと思っています。春はセンバツで優勝して、夏もここまで連れてきてもらって、野球人生はすごく充実していました。今は野球に集中していますけど、終わったら新しいことにチャレンジしたいんです。いつかは海外に行って、自分の世界を広げてみたいです」

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