全校生徒18人、生徒募集停止の措置命令...それでも和歌山南陵高校が新たに「レゲエ校歌」をつくったワケ (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 傍らにいた教員に「甲斐理事長はいらっしゃいますか?」と尋ねると、「そこにいるのが理事長です」と返ってきた。視線のすぐ先には、上に和歌山南陵高校のユニホーム、下はハーフパンツというラフなスタイルの男性がいた。てっきり野球部員の保護者かと思ったメガネ姿の中年男性こそ、甲斐理事長だったのだ。

「理事長らしくないとよく言われます。ウチはいいところも悪いところも完全にオープンです。お金の話もそうだし、寮が戦時中の貧乏長屋のようにひどい状況なのもオープンにしています。それを隠してきたのが、今までの南陵だったので」

 甲斐理事長の本業は経営コンサルタントで、かつては南陵学園の営業部長を務めたキャリアもある。旧経営陣から経営を引き継いだばかりだが、甲斐理事長は「まさに『火中の栗』ですよね」と笑う。

「自分の親から『人生、好きなようにやれ』と言われてきたんですけど、後悔しかしていないんです。『若い頃の苦労は買ってでもしろ』と言いますけど、今回は『せんでいい苦労』かもしれません。でも、子どもたちに伝えたいことがあるし、せめて普通の高校生活を送らせてやりたい。そして、教育界を変えていきたい思いがあるんです」

【唯一無二の校歌】

 学校再建の一手として、まず校歌を変えた。なぜ校歌だったのか。そう問うと、甲斐理事長はてらうことなく答えた。

「私が南陵学園の営業部長をしていた7年前、学校を再建する時にアーティストの横川翔くんに『校歌をつくってほしい』と頼んでいたんです。翔くんは『お金なんかいらんから』と二つ返事で受けてくれて。彼がレーベルを立ち上げる時に資金援助したことを恩義に感じてくれたんでしょうね。高校野球の試合中にこんな校歌が流れたら、テレビ中継を見ていた人もビックリするじゃないですか。まずは批判されてもいいから、やろうやと決めました」

 和歌山南陵の校歌は複数の楽曲をひとつにまとめる、「ダブ」と呼ばれるレゲエ特有の手法でつくられた。『一歩前へ』(INFINITY16 feat.WARSAN)と『ドロだらけのスニーカー』(INFINITY16 feat.横川翔)の楽曲をベースに、新たな歌詞をプラスしている。

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