福井工大福井の監督となった大阪桐蔭「藤浪世代」の白水健太は「西谷先生を真似ていたら、一生、大阪桐蔭には勝てない」と格闘の日々 (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro

 ただある時から、「これじゃアカン。自分の色がない」と思うようにもなった。大阪桐蔭とは選手の質も環境も違う。コーチとして赴任当初の頃は、とくに選手たちが大阪桐蔭の野球、練習などを知りたがり、それに応えようとする自分もいた。だが、コーチ、監督として6年、「西谷先生を真似ていたら、一生、大阪桐蔭には勝てない」と力強く口にする。

【まず自分を生徒に知ってもらうこと】

 チームのために、選手たちのために自分はどうあるべきか。また、白水健太の色は何か。簡単に答えにはたどり着けていないが、考えを重ねるなかでひとつの言葉と出会い、見えてきたものがある。

「勝ちたいなら、まず白水健太を生徒に知ってもらうことが一番」

 そう熱く語ってくれたのは、練習試合で訪ねた先の松山商の監督・大野康哉だ。そのアドバイスは胸に響き、白水はそこからひとつの変化を自らに課した。

「それまでは担任の白水健太も、監督の白水健太も同じカラーで通していたんです。でも今は、学校では自分の素の部分も出すようにざっくばらんに接しています。選手との距離は、前に比べたらかなり近くなったと思います。明らかに子どもたちの笑顔も増えました」

 選手が監督を知っていくと同時に、白水も選手のことをより深く知るようになっていた。

「ある時、遠征に向かうバスのなかで小説を読んでいる生徒がいたんです。僕らの時代、そもそもマンガではなく、ふつうの本を読んでいるのは藤浪(晋太郎)しかいなかったし、まして遠征に行くバスで読むヤツなんていない。そこでちょっとビックリしたのと、僕は『コイツ、すごいな』と思ったんです。これはひとつの例ですけど、選手を深く知ろうとすると、気づいていない一面があったり、僕の知らない能力を持っていることがわかったり......。そういうことが増えていくと、選手を今まで以上に信じられるようになってきました。それまでは、口では『信じてるぞ』と言っていても、心の底から信じきれていなかった。今は形をつくって、『あとはおまえらに任せるからな、頼むぞ』と。信じられるだけの根拠が増えていったからで、それは必ず野球のなかで生きてくると思います」

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