高松商・浅野翔吾は小学生時から95本塁打。甲子園でのホームランに「球場の空気が変わった」

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 高松商の長尾健司監督は、その瞬間を「空気が変わった」と評した。その言葉に深くうなずくしかなかった。

 浅野翔吾が放った打球は右中間方向に伸び、そのままフェンスを越えていった。

 8月11日の甲子園・高松商(香川)対佐久長聖(長野)戦は、ひとりの小柄な怪童のパフォーマンスによって異様な展開に突入していく。

 右中間に放り込んだ次の打席では、浅野は111キロのスライダーをレフトスタンドへ弾丸ライナーで運んでみせた。

 なんだ、この選手は。いったいなんなんだ......。

佐久長聖戦で2打席連続本塁打を放った高松商・浅野翔吾佐久長聖戦で2打席連続本塁打を放った高松商・浅野翔吾この記事に関連する写真を見る

衝撃の2打席連続本塁打

 理解不能──甲子園球場全体がそんな雰囲気に包まれた。それまで爆発の気配すら漂っていなかっただけに、衝撃は大きかった。試合は浅野の2本塁打もあり、高松商が14対4で佐久長聖を圧倒した。

 大会前から浅野は話題のドラフト候補だった。身長171センチ、体重86キロと上背はないものの、大会前の時点で高校通算64本塁打を放っていた。

 ただし、この本数自体にさしたる意味はないかもしれない。浅野の本塁打数が40本に達した昨秋、長尾監督は不満そうな顔でこう語っていた。

「ウチは公立だから、この2年はコロナの影響で練習試合が全然できなかったんです。例年より半分くらいの試合数だったので、普通に試合ができていたら浅野なら80本は打っていますよ」

 その言葉を信じれば、本来なら浅野の高校通算本塁打数は100本以上に達する計算になる。

 小学生時に95本、中学生時に55本のホームランを積み重ねてきた、根っからのホームランバッターである。なぜ体格的に恵まれているとは言えない浅野が、これだけ飛距離を伸ばせるのか。以前に浅野はこんな秘訣を語っている。

「長尾先生に中村剛也さん(西武)のバッティング動画を見せていただいたんです。中村さんは高めの球も低めの球も、ボールに対してバットを縦に入れていました。この打ち方を意識するようになって、とくに低めのボールが得意になりました」

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