ドラフト候補の絶対的エースに「苛立ちを表情に出すなよ!」。センバツ以降、勝てない大島高校ナインに起きた意識改革 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 大会後、主将の武田涼雅は島に帰ると周囲から次々と「甲子園は楽しかった?」と聞かれたという。アルプススタンドには多くの島民が押し寄せ、背中を押してくれた。その快感や感謝はあるものの、武田の内面を占めたのは「後悔」の感情だった。

「最後は自分の併殺打で終わっていますし、悔いが残っています。甲子園にはやり残ししかない。もう1回、あそこに戻るための糧にしています」

チームに充満する不穏な空気

 だが、チーム内にはふわふわと落ち着かないムードが充満していた。大会前から「離島の奇跡」と注目され、多くのメディアで取り上げられた。なかには「甲子園に出られただけで満足」という雰囲気の選手もおり、夏に向けてリベンジを期す選手との温度差が広がった。

 センバツ直後に出場した春の九州大会は、初戦で小林西(宮崎)に3対8で逆転負け。まさにチーム状態はどん底だった。

 その敗戦を受けて開かれた選手間のミーティングで、事件が起きる。サードを守る前山龍之助が、エースの大野稼頭央を「苛立ちを表情に出すなよ!」と叱責したのだ。

 誰もがチームの大黒柱は大野だと認めていた。最速146キロの快速球に、キレのあるカーブ、スライダー、チェンジアップを操る左腕。プロスカウトも注目し、メディアからの取材も圧倒的に大野が多い。いつしかチーム内で、大野に対して指摘しづらい雰囲気が流れていた。その空気を打ち破ったのが前山だった。

「みんな大野に言えなかったんですけど、誰かが言わないといけないことなので。僕もマウンドでの態度に頭にきていたので、自分が言うしかないなと。仲間同士と言っても、仲良しごっこでやってるわけじゃないので」

 ほかにも、控え外野手の白畑勝喜郎も「主力メンバーの前日の過ごし方に緊張感がなかった」と厳しく指摘した。塗木監督が「優しくて気になるところを指摘し合えない」と嘆く選手たちは、変わろうとしていた。前山からの言葉を受け、大野はこう語る。

「打ち込まれてムキになって、ストライクが入らなくなって......。自分に対して苛立ってしまって、自分のせいで負けてしまいました。龍之助に言われて、感情を表に出さないようにしようと反省しました」

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