スーパー中学生から甲子園のスターへ。仙台育英・伊藤樹「全集中」の投球 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 間違いなく、投手としての岐路に立っていた。伊藤は元来、器用な投手である。多彩な変化球を駆使して、打たせて取る投球を極めようと思えばできたかもしれない。きっと「まとまった投手」として活躍し、高い評価を受けたに違いない。

 だが、秀光中時代から指導してきた須江監督は、伊藤の高校1年時にこんな育成方針を語っていた。

「伊藤は今のような器用さだけで終わらせてはいけない。彼をもっと大きく育てたいんです。いずれは奥川恭伸くん(星稜→ヤクルト)がモデルになってくるでしょう」

 昨夏に開催された甲子園交流試合で、伊藤は二度目の甲子園のマウンドに立っている。リリーフで登板して打者3人、わずか2アウトを取っただけだったが、今までの伊藤のイメージを覆す姿が見られた。

 甲子園で投げた23球のうち、変化球は2球だけ。コントロールミスなどおかまいなしに、荒々しく腕を振って、常時140キロ超のストレートで押しまくった。

 その試合後、伊藤は「ストレートをスケールアップするためにやってきました」と自身の取り組みについて語ってくれた。

「冬場に遠投を重点的にやって、あとはいつもやっている柔軟性を高めるトレーニング、春になってウエイトトレーニングもやって少しずつステップアップしていきました」

 優等生が少しばかりヤンチャに手を染めた──。イメージチェンジした伊藤の姿を見て、そんな感想が頭に浮かんだ。

 そしてさらに時間が経ち、迎えた今春。伊藤は大きく進化して甲子園に戻ってきた。

 佐々木朗希(ロッテ)のように左足を顔の高さまで上げると、捕手に向かって大胆に体重移動する。だが、腕の振りはコンパクトで、きっちりと両コーナーに投げ分ける。昨夏に手に入れたダイナミックさに繊細さを融合させた、新しい伊藤樹の姿だった。

 4回表、二死一、三塁のピンチでリリーフに立った伊藤は、その前にマウンドに立っていた1学年後輩・古川翼に思いを馳せていた。

「自分は1年夏に甲子園で先発して、試合を崩してしまいました。古川には、絶対に自分と同じ思いをさせたくない。ここで抑えるのが3年生としての責任、エースとしての役割だと。"全集中"して投げられました」

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