ドラフト漏れも揺るがない思い。NTT西日本・宅和は東京ドームで恩を返す (3ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Inoue Kota

 昨年は社会人野球のシーズンの締めくくりとして開催される日本選手権に母校の現役部員たちを招待。現在の松江商高の監督が、宅和の2学年先輩で近しい間柄という背景も手伝い、実現した試みだった。すると、アマチュアトップクラスのプレーを間近で見たことで、「大学以降も野球を続けたい」と意志を示す選手が増えるなど、大きな手ごたえを得た。

 地元である島根の野球少年たちにより大きな希望を抱いてもらうためにも、社会人3年目の今年は"プロ入り"を大きな目標に据えた。

「自分は高校、大学で確固たる成績を残せていません。大商大、NTT西日本のチームメイトと話していても、高校最後の夏に投げていないのは自分しかいないくらい。その自分がプロ入りを果たせば、『自分もやればできるんじゃないか』と思う選手が出てくるかもしれない。大学以降の野球やプロを身近な目標と思ってもらうためにも、何とか今年指名を受けたいと思っていました」

 今年25歳。年齢を考えると、プロ入りに向けて残された時間は多くない。「今年がラストチャンス」という決意を持ってシーズンを迎えた宅和の前に立ちはだかったのが、新型コロナ禍だった。春先に予定していた公式戦が中止。アピールの場が奪われるだけでなく、一時はチーム全体での活動も自粛となるなど、描いていた青写真が次々と崩れていった。

 当然焦りはあったが、「もう一度、体、技術をベースアップするチャンス」と前向きに捉え、冬場に近い強度でのトレーニングに取り組んだ。
 
 切り替えて練習に励んでいる最中の5月20日に発表されたのが、夏の甲子園の中止だった。その一報を聞いた時、毎年末に顔を合わせている母校の後輩たちの存在が頭をよぎった。

「速報を知った時、咄嗟に『何かしなければ』と感じました。自分自身、思うように練習ができない状況や、予定されていた大会やオープン戦などの実戦の場がなくなっていく状況に動揺を隠せませんでした。ある程度年齢を重ねた自分でもこうだったのだから、高校生の年代では尚更心が整理できないんじゃないかと思ったんです。今の自分の立場で、彼らのために何かできないかと」

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