意図的ニヤリも究極の投球術。
JR東日本・西田光汰は完成度で勝負する
その笑顔にはワケがある。
JR東日本の西田光汰は、相手の目を見て不敵に笑う。その間、5秒......いや12秒。キャッチャーからボールを受け取り、テンポよくボールを投げたかと思えば、今度は投球間隔の制限時間を目一杯使って(※)、打者をどう料理してやろうかと考える。
※投手は、捕手またはその他の野手、審判員から返球を受けてから、走者がいない場合は12秒以内に、走者がいる場合は20秒以内に投球しなければならない
「僕が笑っているのを見て、『なんで笑ってんねん』とムカッとするバッターとか、たまにいるんですよ。そこで『力入ってんな』と思ったら、ストレートでもめちゃくちゃ遅い球を投げてみたり......いつもそういうことをしていますね」
楽しいおもちゃでも与えられたかのように、西田は無邪気な表情でその意図について明かした。
7月に行なわれた都市対抗で活躍したJR東日本の西田光汰 大体大浪商(大阪)からJR東日本に入社して今年で3年目。同期の太田龍、山口裕次郎らと並んで、今秋のドラフト候補と目される21歳の右腕は、まるで社会人10年目を迎えるベテラン投手のような風格を漂わせている。その姿は、高校の大先輩で、現役時代は中日、ロッテで名ストッパーとして活躍した牛島和彦氏を彷彿させる。
昨年、アメリカで行なった春季キャンプの時の話だ。ひとりの男との出会いが、西田のピッチングにちょっとしたアレンジを加えた。
その男とは、MLB往年の名投手、ドワイト・グッデンだ。グッデンは最速98マイル(約158キロ)の速球とキレ味鋭いカーブを武器に、ニューヨーク・メッツに在籍していた1985年に最多勝、最優秀防御率、最多奪三振の"投手3冠"を達成。サイ・ヤング賞にも輝いた。
そのグッデンとの会話のなかで、西田はピッチングの幅を広げるあるヒントを見つけた。
「グッデンは真っすぐとカーブぐらいしか持ち球がなかった。真っすぐは150キロ以上出ていたみたいですけど、そこに130キロ台の真っすぐも織り交ぜて抑えていたそうなんです。それで(自分も)真っすぐに緩急をつけてみようと思いました」
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