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星稜・奥川恭伸vs履正社打線。
打者有利の夏に新たな伝説は生まれるか (2ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 走塁も関東一戦で一死満塁から二塁走者が安打で還れる当たりで三塁ストップ、明石商戦では一死一、二塁のライトオーバー二塁打で二塁走者の打球判断が悪く、一塁走者が本塁に還れなかった。ともに後続打者がタイムリーを放ったため目立たなかったが、奥川相手には、少ないチャンスをどれだけ得点に結びつけられるかが重要になる。こうしたミスは命取りになりかねない。

 一方の奥川も負けていない。初戦で旭川大高を3安打完封。わずか94球と制球のよさを見せると、3回戦の智弁和歌山戦では強力打線を相手にギアを上げて本気モードにチェンジ。自己最速の154キロをマークした球の勢い、スライダーのキレは最後まで衰えず、14回を投げて3安打、23奪三振と観客が思わず引き込まれるような投球を披露した。

 猛暑、金属バットなど圧倒的に打者有利の時代に信じられない快投で、甲子園に"奥川伝説"をつくった。

 奥川のすごさは、スピードや奪三振などの数字では表われない部分にある。相手を見て、かけひきをしながら投げられることだ。省エネ投球だった旭川大高戦はもちろん、準決勝の中京学院大中京戦でも速球を打とうと前のめりになる相手を利用し、要所ではスライダーを続ける配球を混ぜながら、ストレートで打たせて取った。打ち気があると見ればそらし、打つ気がないと見るや簡単に追い込む。

 センバツでも150キロを記録したが、7月の石川大会直前まで腕の筋力トレーニングをしたことで同じ150キロでも球の強さが違う。旭川大高戦ではスライダーが「まだしっくりきていない」と言っていたが、そのあとに修正。智弁和歌山戦からはフォークも本格解禁して配球のバリエーションを増やした。

 ただ、さすがの奥川でも履正社打線を完璧に封じるのは至難の業。今大会は例年以上に強風が吹いており、150キロの速球と履正社打線のスイングが衝突すれば、高く上がった打球が風に乗ってスタンドインする可能性もある。

 5試合連続初回先頭で安打を放って勢いに乗る桃谷、6月の練習試合で奥川から本塁打を放った小深田大地、今大会2本塁打の井上に注目したいところだ。

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