2019.08.22

甲子園トリビア。「深紅の大優勝旗」には
ラテン語が記されている

  • いとうやまね●文 text by Ito Yamane
  • photo by kyodo news

スポルティーバ・トリビアvol.7【甲子園編】

 いよいよ決勝戦を残すのみとなった甲子園。石川県代表の星稜と大阪府代表の履正社。大優勝旗を手にすることができるのは一校のみだ。優勝という金糸の二文字の間には、輝く陽光に月桂樹の葉、翼を広げた鳩がデザインされている。下の「VICTORIBUS PALMAE」の文字はラテン語で「勝者に栄光あれ」という意になる。複数形なので「勝者たち~」と言った方がいいかもしれない。「栄光」と訳されるPALMAEは「枝」のことだ。モットーにラテン語を使うのはアカデミーでは一般的である。先人へのリスペクトが込められている。

昨年、新調された優勝旗 月桂樹については、オリーブ説もある。今となっては定かでないが、いずれの葉にしても古代ギリシャから伝わる勝利の象徴である。勝者にはこれらの枝や葉で作った冠が与えられる。古代に倣うならばスポーツの場合はオリーブ冠だ。月桂冠は文化的功労者に与えられる。この意匠は1915(大正4)年に開かれた第1回大会から変わらない。旗は3代目で、昨年の第100回大会を記念して60年ぶりに新調された。

 生地は正絹手織の最高級品で、綴(つづ)れ織りという技法が使われている。一説には古代エジプト発祥の織り方だとか。遥かシルクロードを通って東アジアにもたらされた。大優勝旗でいうならば赤く染められた縦糸の上に金糸などの横糸を織り込むことで、鳩や文字といった絵柄を作っていくのだ。熟練の職人でも一日に数センチも進まないという。

 旗の大きさは縦1.2×横1.5メートル。すべてを仕上げるのに1年6カ月もの歳月を要している。制作しているのは、1887年創業の京都の老舗旗屋「平岡旗製造」さん。ちなみに制作費は約1200万円。

 大優勝旗は、旗の周りのフリンジや漆塗りの旗竿、竿頭、竿頭綬 と呼ばれる優勝校名を記したペナントなどを入れると、総重量は約10キロ。開会式の優勝旗返還と違って、閉会式の授与式と行進はリハーサルのない一発勝負だ。旗を持つ主将の緊張は計り知れない。なにはともあれ、決勝戦も好ゲームを期待したい。

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