5季連続甲子園出場の3人が中心。
智弁和歌山が挑む「負けられない夏」
夏の県大会が始まる直前、智弁和歌山の名誉監督である髙嶋仁に、教え子も多く残る現チームへの期待を尋ねた。すると、こんな答えが返ってきた。
「記録がかかっとるのが3人おるからね。これは何とか達成してほしいと思うとるんです」
高嶋が言う"記録"とは、黒川史陽、西川晋太郎、東妻純平にかかる「5季連続甲子園出場」で、つまり和歌山大会を制することを指していた。あえて個人記録への期待を口にしたところに、1年時から高嶋の厳しい叱責にも食らいついてきた3人への思いが伝わってきた。
「5回続けて甲子園に出るということは、1年の夏から甲子園に出るチャンスを全部ものにしたということやからね。ほんまに大したもの、価値があります。ウチでは道端(俊輔/現・明治安田生命)が5回出たけど、岡田俊哉(中日)や西川遥輝(日本ハム)は4回。5回出場というのは過去に9人しかおらんと聞いて、余計に達成してほしいなと思うようになったんです」
5季連続甲子園出場を果たした智弁和歌山の主将・黒川史陽 これまで5季連続甲子園出場を果たしたのは、以下の9人である。
堤達郎(高松商/1977夏~79年夏)
荒木大輔(早稲田実業/1980年夏~82年夏)
小沢章一(早稲田実業/1980年夏~82年夏)
黒柳知至(早稲田実業/1980年夏~82年夏)
清原和博(PL学園/1983年夏~85年夏)
桑田真澄(PL学園/1983年夏~85年夏)
梅田大喜(明徳義塾/2002年夏~04年夏)
鶴川将吾(明徳義塾/2002年夏~04年夏)
道端俊輔(智弁和歌山/2009年夏~11年夏)
戦前は旧制中学制度により6回出場した選手もおり、この9人というのは戦後の記録であるが、それにしても偉大な記録である。そんな高校野球史に残る選手が、この夏の智弁和歌山には3人もいるのだ。
夏の甲子園大会の開幕日。開会式を終えると、49校の主将が室内練習場に集まり、それぞれ取材を受けていた。5度目の入場行進を終えた黒川は、記者との受け答えも慣れたもので、貫録を漂わせていた。もちろんそれだけではない。試合時の甲子園球場の雰囲気も、打席から見える景色も、黒土の感触も、夏の日差しや浜風も......さらに言えば、大会中の過ごし方、宿舎の部屋の様子や周辺の地理もすべて熟知している。
「宿舎も5回目なので、久しぶりに家に帰ってきたみたいな感じです」というコメントからも、余裕がうかがえる。
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