5年前の再現なるか。前橋育英が谷間の世代で当時と同じ匂いがする (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 今や甲子園でも「攻撃野球」を標榜するチームが増えているなか、前橋育英は昔ながらの「守備から流れを呼び込む野球」を続けている。だが、いくら前橋育英が守っても、今年の健大高崎の攻撃力は防ぎきれないのではないか......。そう感じたのも事実だった。

 春の県大会は準決勝で健大高崎に2対7で完敗。1回表に5点を失い、荒井監督も「コールドにならなくてよかった」とこぼすほど、力の差を感じさせる負け方だった。

 だが、6月に再び前橋育英を訪ねると、荒井監督はある変化を口にした。それは雑誌に掲載する3年生の集合写真を撮影していたときのことだ。2列に並んだ3年生たちを見守りながら、荒井監督は感慨深げにつぶやいた。

「こうして並んでいるところを見ても、3年生同士の距離が近く感じるんです。それは実際の距離だけじゃなくて、心の部分も含めてですね」

 そして、微笑みながらこう続けた。

「雰囲気が5年前の3年生に似てきたんだよなぁ」

「5年前」とは、前橋育英が夏の甲子園に初出場し、初優勝を飾った2013年のことだ。1学年下に高橋光成(現・西武)という逸材はいたが、3年生には特別に能力が高い選手がいたわけではない。そして、彼らもまた「谷間の世代」と呼ばれていた。

 荒井監督の手応えを耳にしてから1カ月あまり。前橋育英は群馬大会決勝戦で再び健大高崎と戦い、終盤に3点ビハインドをはね返して6対5でサヨナラ勝ちを飾った。選手個々の能力を足し算すれば、健大高崎の圧勝だったに違いない。それでも前橋育英は大事な大一番を制し、夏の甲子園へとコマを進めた。

 その強さの源は何なのか。主将の北原に聞くと、こんな答えが返ってきた。

「ウチの野球は、ピッチャーの恩田(慧吾)を中心に、守りから攻撃につなげていく野球です」

 ここまでを聞くと、ごく平凡なチーム紹介に思えるが、この言葉には続きがある。

「ウチは守備で大切にしていることが3つあります。ゲッツーを取ること。球際を抑えること。4つ(ホーム)で殺すこと。この3つを守りでできれば、次の攻撃に流れを持っていくことができます」

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