佐賀北、奇跡の初優勝から11年。「がばい旋風」が高校野球に帰ってきた (2ページ目)

  • 加来慶祐●文・写真 photo by Kaku Keisuke

 2017年秋、4度目の挑戦でついに採用試験をクリア。年末には広島の野村と会う機会があり、合格を報告。野村は「おめでとう!」と自分のことのように喜んでくれたという。そして、この春から唐津工の保健体育担当として教員生活をスタートさせた副島は、あっという間に待ち焦がれた夏を迎えたのだった。

「ようやくこの場に来ることができました。この独特のしびれる空気。とんでもない暑さのなかで、みどりの森県営球場に戻って来ました。懐かしいし、やっぱりうれしいですね」

 試合前には青野雅信監督からシートノックの大役を任された。青野監督は言う。

「ウチの野球部に来てから、ずっとノッカーをやってもらっています。ノックはずいぶんとうまくなりましたよ。最初の頃なんて、キャッチャーフライも空振りばかりで(笑)」

 佐賀北時代の恩師である百崎敏克(ももざき・としかつ)前監督から採用試験合格祝いにプレゼントされたノックバットを、多い日には2時間近く振り続けることもあった。また、打撃投手として1日100球以上投げることもザラだ。高校生と一緒に味わう心地いい疲労感。これこそが、副島が銀行員に別れを告げてでも手にしたかった夢空間だった。

 試合中は、控え部員とともにともにスタンドで声を枯らす。福岡大時代と同じアイボリーとえんじのユニフォームも違和感はなく、最前列でメガホンを振り回す姿は、さながら現役部員のようである。

 あの夏と同じ鋭い視線で青野監督の采配を学び、試合中、いろいろとシミュレーションしているという。試合中、副島が頻繁に飛ばす「練習どおりでいいから」という指示を耳にするたび、頂点を極めた野球人としての自信が蘇ってきたような気がした。

 一方で、頂点を極めた者にしかわからない達観した世界もある。

「生徒たちには『勝つことがすべてじゃない』と言っています。もちろん、勝って甲子園に行くことは大事な目標ですが、どんなジャンルでもいいので高いレベルを目指して、挑戦を続けることの大切さを教えていきたいです」

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