球児を支える秘密兵器。中村奨成の「カチカチバット」誕生秘話 (3ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Kyodo News

 野田は、「これこそが、対応力と飛距離を両立させる"本物のスイング"だ」と確信した。さらに、やや語気を強めながら、こうつけ加える。

「野球界の常識では、『ホームランを打つための素振りスイング』が、上から叩けている最短距離のスイングとされている。でも、高校野球を経験していない私が思う『最短距離で上から叩けているスイング』は、その常識とは真逆で、王貞治さん、現役選手なら柳田悠岐選手(ソフトバンク)、大谷翔平選手(エンゼルス)の『ホームランスイング』です。『プロのホームランスイング』を体得することが、ホームランを打つ一番の近道だと思ったんです」

 プロ野球選手が本塁打を放つ際に見せる、真の意味での"最短距離"のスイング。これができるようになれば、息子もホームランが打てるはず――。そう確信したが、ひとつ問題があった。一般的な「ヘッドを一直線に出す」スイングを良しとするチーム方針との衝突だ。当時、野田の長男は野球を始めて間もない小学2年生。チームの指導者陣は、野田が息子に教えているスイングを一笑に付した。

「『こう打ったらいいと思うんです』と話したところ、当時の指導者陣に『高校野球もやってないヤツが口を出すな』と一蹴されてしまいました(苦笑)」
 
 確信を持った理論が、自身の野球経験を理由に跳ね返されてしまう。そんな歯がゆさが、野田に発想の転換を生む。

「言葉で納得させられないなら、『物』にしてしまえばいい。自分の理論を体得できるバットを作って、それで練習した息子が結果を出せば、周囲も納得するはずだと」

 こうして、2003年に理想のバット作りが始まった。折れたバットなどの廃材を利用し、試作を繰り返す日々を重ねるうちに起こった "偶然"が、カウンタースイングを生み出した。

「何気なく廃材をカットしていたら、めちゃくちゃいい形のコマがふたつできた。『これは使わなもったいないな』と思って、何気なしにバットに2個つけてみた。それを振ったら『これや!』と(笑)。理論と構造が、一気につながりました」

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