監督はコンビニ経営者。別海高は「乳しぼりができる甲子園球児」を目指す (2ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko

 聞くと、4人のうち3人は札幌の専門学校に通い、あとのひとりは海上保安庁に務めているという。

「かっこいい制服を着て、やって来ましたよ。こういう仕事をしていて、なにがうれしいかって、卒業した子がグラウンドに戻ってきてくれることなんです」

 試合に勝つことも大きな"喜び"なのだろうが、人を育てた達成感を実感できる瞬間こそが、本当の意味で「やった!」と指導者が小さなガッツポーズをつくるときかもしれない。

「土地柄、酪農や農家の子が多いんですけど、たとえば酪農の家だと朝、夕と2回搾乳があるんです。ここはバスの便も少ないですし、自転車で通えない生徒は、どうしても親御さんの送り迎えが必要になります。そうなると『野球部は厳しいかなぁ』ってなってしまって......」

 それでも、少年野球を指導しているときに出会った子や、近隣の中学をコツコツ回った成果もあって、部員は少しずつ増え、この春には5人の女子マネージャーも含め27人になった。

「ウチは女子マネージャーも大事な戦力ですから。練習プランを作成するのも、それを選手たちに伝えて実践させるのも、マネージャーの仕事です」

 なにより驚いたのは、選手たちのプレーだ。チームを引っ張る主将の松田恵永(けいと/3年/右投左打)は、攻守好打の遊撃手。小気味よいフットワークで打球をさばく。

「別海は人が温かいです。学校の帰りとか、すれ違っただけで『頑張るんだよ!』って、声をかけてくれます。ここの冬は雪との闘いもありますし、必死に頑張ってきて、あっという間に3年の夏です。あとは勝って、島影監督と一緒に泣こうと思います」

 松田とともにチームリーダーとして奮闘してきた郡司晋哉(3年/右投右打)は、キャッチングの技術が素晴らしい捕手だ。

 低めのストレート、緩いカーブ......捕球音の出にくいボールでも「パーン!」と乾いた快音を発し、投手の全力投球に応える。

「どんなボールでも絶対にミットを止めて音を出すように、監督から言われています。ショートバウンドも絶対に止めます」

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る