野球以外の話はしない。センバツ初出場の
公立校に現れた2人のエース (4ページ目)
その極意について、ふたりはこう言っていた。
「多少、甘くなってもボールに力があったら打ち取れるんだから、腕振って投げろって染田先生に言ってもらって、実際、投げてみたらそうだなって自分で感じたことがあったんで、ホントだなと思って......」(川畑)
「強い相手にそうやって考えるのは最初、難しかったんですけど、実際、初球にストライク取ったら打たれないんですよ。染田先生が言うように、ボール、ボールで入った方が打たれてる。どうせヒットを打たれるなら初球でも同じだし、ストライクが取れればあとが楽になりますから、そういう攻め方をしていかないと力では負けてしまいますし......」(富山)
センバツでは川畑が1番、富山が10番をつける。その狙いについて、市川監督はこう言っていた。
「僕はコイツがエースに相応しいと思うピッチャーに1番を渡します。エースは勝てるピッチャーです。そして、今の川畑は高校野球で勝てるピッチャーなんです。もしかしたら富山のほうが長く野球をやって、稼げるピッチャーになれるかもしれない。社会人とかプロに行けるピッチャーは富山なんでしょう。でも、現時点では川畑がウチのエースです」
10番の富山は言った。
「1番は......やっぱり欲しい。でも僕の中では1番だから、10番だからっていうのはあんまりなくて、勝つために自分のすべき仕事があると思っています。1番だけじゃなくて投げるピッチャーはその試合の8割の責任を持てって言われてますし、仲間が苦しい場面で抑えることができるのが本物のエースかなと思ってます」
1番の川畑はこう言った。
「1番へのこだわりは富山にもあると思いますし、僕にもあります。チームの中で一番いいピッチャーがつける番号が1番ですし、1番はチームを勝たせるピッチャーで、大事な試合を任せてもらえるピッチャーで、ピンチで抑えて流れをグッと持ってこれるピッチャーです。そのすべての役割を任されるのがエースだと思います」
エースはひとり――その座を争う川畑と富山は普段、野球の話はしても、それ以外の話をすることはない。一緒にキャッチボールをしてはお互いの球筋を確認し合い、お互いが目を通す野球ノートに何を書き、監督やコーチにどんな質問をしているのかをいつも気にしている。
乙訓のふたりのピッチャーは、ほんとうのライバルなのである。
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