東海大相模、唯一の「想定外」がもたらした45年ぶり日本一

  • 柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji
  • 岡沢克郎●写真 photo by Okazawa Katsuro

 高校野球100周年の節目に日本一となったのは、準決勝で快足外野手・オコエ瑠偉(るい)が牽引する関東一(東東京)を破り、決勝で東北勢初の全国制覇を狙った仙台育英(宮城)を退けた東海大相模(神奈川)だった。

 巨人の原辰徳監督の父・原貢氏(2014年に逝去)が率いた1970年以来、2度目の深紅の優勝旗を手にした。

夏の甲子園で45年ぶり2度目の日本一を達成した東海大相模夏の甲子園で45年ぶり2度目の日本一を達成した東海大相模

 151キロ左腕・小笠原慎之介と鋭いタテのスライダーを武器とする吉田凌――世代を代表する両投手を擁し、準優勝した2010年夏のチームと比べても遜色ない強力打線で、東海大相模は戦前から断トツの優勝候補だった。

 門馬敬治監督は、初戦の聖光学院(福島)戦から多くを語らなかった。勝利後のお立ち台におけるテレビインタビューでも「今日の試合はもう忘れました」と話し、以下の3つのキーワードをひたすら並べた。

「一戦必勝」
「すべてを想定内に」
「アグレッシブベースボール」

 誤解を恐れずに言うならば、門馬監督の発言は面白みに欠けた。自慢の投手陣に対する評価には抽象的な言葉を並べ、相手打線の印象なども具体的には言及しない。見出しになりにくい言葉ばかりで、とりわけ新聞記者は頭をかかえた。早稲田実業の清宮幸太郎やオコエといった個性あふれる選手が期待以上の活躍を見せた大会にあって、優勝候補の指揮官として、自ら憎まれ役を買って出ているかのようだった。

 すでに選抜を2度制している門馬監督にとって、夏の全国制覇が悲願であるのは疑いようがない。しかし、そういった「欲」を口には出さず、目の前の試合にだけ照準を合わせ、勝てば兜の緒を締め直し、続く試合に気持ちを切り替えていた。

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