桐光学園・松井裕樹、苦しみながら手にした大きすぎる1勝 (2ページ目)

  • 柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji
  • 小内慎司●写真 photo by Kouchi Shinji

 松井が振り返る。

「公式戦ということで、練習試合よりテンションが上がってしまって、気持ちが高ぶってしまって球も浮ついてしまった」

 中盤以降、松井はカーブを中心とする配球に変え、相手に的を絞らせない。桐光は7回裏に2点を奪い、勝ち越しに成功。4-2で迎えた9回表に松井は、ヒットとふたつのフォアボールで一死満塁のピンチを背負うも、あえてワンバウンドさせるスライダーを投じて狙い通りの三振を奪い、最後の打者をファーストへのファウルフライに退けた。その瞬間、思わず口から出た「あっぶねえ~」という言葉と、地方大会の初戦にしては大きすぎる派手なガッツポーズが、この日の苦闘を物語っていた。

「自分たちの代になって、全国制覇を目指してやってきた。その思いが強い分、なんとかしてやろうという思いが強すぎてこうなってしまった。それでも勝ちを"拾えた"。(17日の試合まで)気持ちの制御もしっかりできるように調整していきたい」

 7本のヒットを打たれ、三振は9個。奪三振ショーを期待したファンにとっては、物足りない数字かもしれない。だが、桐光学園の野呂雅之監督にとっては想定内であり、むしろ吉兆であったかもしれない。

 それは相洋戦の3日前のこと。野呂監督は母校である早稲田実業が甲子園制覇を果たした2006年、西東京大会初戦の都立昭和との試合を引き合いに出し、次のように語っていたのだった。

「全国制覇した時の早実は、初戦で3-2という苦しい展開で勝利し、徐々に力をつけていった。うちも全国制覇を目標にしていますが、そこに至るまでには地方大会から万全で勝ち上がることは考えられない。全国制覇するチームというのは、必ず苦しい試合を経るものです。だから初戦を前に、慢心することはないし、また慎重になりすぎることもありません。確かに松井が浦和学院戦のようなピッチングができるのであれば、どこが相手だろうと勝たせてもらえるかもしれません。だけどあの日のピッチングを基準に考えてはいけないと思うんです。常に接戦を想定して練習し、勝ち切ることを考えていかないと、神奈川も甲子園も勝ち抜くことは難しいでしょう」

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