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【自転車】片山右京「ツール・ド・フランスでないとダメな理由」 (3ページ目)

  • 西村章●構成・文 text by Nishimura Akira photo by AFLO

「大相撲の場合は、タニマチや熱狂的なファンの方々もたしかにいるんですけど、大半の人たちはいい取組を見たいと思って集まってくる。それで自分も楽しければいいよね、というところは、非常に似ているところだと思います。

 ツール・ド・フランスが行なわれているコースの沿道で、誰それが勝たなきゃいけないと思って拳を握りしめて応援している人は、ごくわずかなんです。沿道にいるのは、長いバカンスの1日、朝からその場所にポジションを取り、自分たちの休暇を優雅に遊んでいる人たちで、2時間前に関係車両が走ってくるとワクワクして、やがてテレビ中継のヘリコプターの音が遠くのほうから聞こえてくるとそのワクワクが最高潮に達して、そこに先頭集団がやってきて駆け抜けて行く。その強烈な盛り上がりが楽しい、と思って過ごしているんですよ。

 その盛り上がりが、政治や経済、さらに地域交流や家族といったいろんな構成で、ツール・ド・フランスを介して全国を巡っていくので、大きな意味で『文化が動いている』としかいいようがないんじゃないかと思います。今年の場合だと、フランソワ・オランド大統領が来るし、ベルギー国王も来るし、イギリスでのスタートにはウィリアム王子夫妻もやってきた。そういう要人がひとつのイベントにやって来ることが、ツール・ド・フランスのすごいところだと思います」

巨大なスポーツイベントを文化として支える、この10分の9の部分について、「右京さんはおそらく、F1時代の欧州経験から、非常によく理解をしているのではないか」と山口氏は推測する。

「たとえば、灼熱の苛酷な3週間を戦うレース期間中でも、各チームの移動オフィスには観葉植物とカーペットが敷いてあって、それだけ心のゆとりがあるんです。自転車競技出身者とは違う目線でレースの文化や雰囲気を見てきたであろう右京さんが、TeamUKYOを立ち上げた直後にそのことに言及して、『観葉植物とカーペットはマストだよ』と言っていたのは、さすがだなぁと感心しました」

 では、ツール・ド・フランスを長年に渡って現場で見てきた山口氏の目には、片山右京の掲げる無謀とも思える挑戦は、いったいどれほどの実現性と可能性があるものとして映っているのだろうか。

(次回に続く)

著者プロフィール

  • 片山右京

    片山右京 (かたやま・うきょう)

    1963年5月29日生まれ、神奈川県相模原市出身。1983年にFJ1600シリーズでレースデビューを果たし、1985年には全日本F3にステップアップ。1991年に全日本F3000シリーズチャンピオンとなる。その実績が認められて1992年、ラルースチームから日本人3人目のF1レギュラードライバーとして参戦。1993年にはティレルに移籍し、1994年の開幕戦ブラジルGPで5位に入賞して初ポイントを獲得。F1では1997年まで活動し、その後、ル・マン24時間耐久レースなどに参戦。一方、登山は幼いころから勤しんでおり、F1引退後はライフワークとして活動。キリマンジャロなど世界の名だたる山を登頂している。自転車はロードレースの選手として参加し始め、現在は自身の運営する「TeamUKYO」でチーム監督を務めている。

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