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【自転車】片山右京「ツール・ド・フランスでないとダメな理由」 (2ページ目)

  • 西村章●構成・文 text by Nishimura Akira photo by AFLO

ともあれ、これで2014年の3大グランツールはすべて終了した。今年のブエルタは、目の肥えたファンを充分に満足させる濃い内容だったが、自転車ロードレースが人気スポーツではない日本で、果たしてどれほどの人がこのレースを観戦しただろうか。しかし、そのような環境にある社会でも、人々の間に「ツール・ド・フランス」という名称だけはなぜか広く浸透している。善し悪しを別にして、ツール・ド・フランスはそれほどのブランド力を持っている、ということだろう。

 そして、このツール・ド・フランスへの参戦を自分たちの目指すべき大目標に掲げた片山右京の戦略に感心した、と語るのが、4半世紀に渡ってツールを取材してきた山口和幸氏だ。1988年から自転車雑誌でツール特集を担当してきた山口氏は、1997年以降、フリーランスのジャーナリストとして毎年、ツールの全ステージを取材している。

「テレビのレース中継でツール・ド・フランスを放映しているのはコンペティション(競技・競争)の部分だけなので、大袈裟に言えば10分の1程度なんですよ。実は、ツール・ド・フランスにはそれ以外の、10分の9もの広い世界があるんです」

 と、山口氏は言う。つまり、その10分の9の部分が、ツール・ド・フランスの100年に及ぶ歴史であり、この競技を支える欧州のスポーツ文化、ということなのだろう。

「ヨーロッパの文化、といっても、じゃあその文化っていったい何なんだ、ということになるじゃないですか。彼らにとってツール・ド・フランスとは、サーカスのようなものが自分たちの町やその近くを通る年に1回の興行で、ちょうどバカンスの時期だから、親戚や友だちを集めてバーベキューで旧交を温めあったり、村おこしのために地域の広場に大勢集まって地元経済界のお偉方も呼んで......というふうに、このイベントでフランスの7月の経済が動いている側面があるんです。これほど大規模なイベントは、日本でたとえようとしても、ちょっと思いつくものがないですね」

 山口氏によると、あえて似ているものを探すとすれば、大相撲がそれに相当するかもしれないという。たしかに、大相撲はスポーツや興行の枠組みを超え、日本の精神的な風土とも強く結びつき、世代を超えたまさに国民的な根強い人気に支えられている。ただし、現在の大相撲は、年に6回行なわれる本場所がその時期の地方経済を大きく動かしているほどではない。そこがツール・ド・フランスとの大きな違いだ、とも山口氏は話す。

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