【自転車】片山右京「マッサーが語るレーサーの超人的肉体」 (3ページ目)

  • 西村章●構成・文・写真 text & photo by Nishimura Akira

 また、TeamUKYOに所属する土井雪広の脚にも驚いた、という。

「『今日はトレーニングをキツめにやったんで、カチカチなんです』と言ってやってくると、たしかにすごく硬いときがあるんですよ。『じゃあ、今日は強めに押すよ』とやって、10分か15分くらいすると、いきなり、ぶわんって柔らかくなる。あれは独特ですね、すごいなあと思いました。柔らかい人は元(もと)が柔らかいから、その人なりに固い筋肉が柔らかくなっていくことはあるけど、カッチカチなのがいきなり柔らかくなるのは、土井君が初めてでした。あれはすごく不思議ですね。その感じを言うと、『そうなんですよね』って、本人も分かってるみたいですけど」

 現在の森川は、TeamUKYOの専属マッサーとして、チームが参戦するアジアや欧州のUCIレースに帯同する多忙な日々を過ごしている。7月末から8月10日までは、チームのヨーロッパツアーでポルトガルに滞在中だ。国内では、Jプロツアーのほぼ全レースでチームと行動をともにし、機材の選定やロジスティクス(物流を合理化させるための手段)などを除けば、クルマの運転や補給食の手配、管理等のオペレーション業務も担当している。

「こういう環境で、いろいろな仕事をさせてもらって、チームには本当に感謝をしています。最初に言った、『ソワニョール』の仕事に非常に近いという意味でも、充実していますね」

 唯一、少し残念なのは、日本ではまだ、この「ソワニョール」という名称が普及していないことだ。ツアー・オブ・ジャパン等で来日した海外チームが宿泊するホテルのルームリストなどでその名称を見るたびに、「あぁ、いいなあ……」という思いがかすかに胸をよぎるという。

「森川さん、肩書きは『マッサー』でいいですか?」
「あ、はい。全然それで問題ないです」

 しかし、こう訊ねられるとつい、そう返答してしまう少し気弱な優しさが、森川の魅力でもある。

(次回に続く)

プロフィール

  • 片山右京

    片山右京 (かたやま・うきょう)

    1963年5月29日生まれ、神奈川県相模原市出身。1983年にFJ1600シリーズでレースデビューを果たし、1985年には全日本F3にステップアップ。1991年に全日本F3000シリーズチャンピオンとなる。その実績が認められて1992年、ラルースチームから日本人3人目のF1レギュラードライバーとして参戦。1993年にはティレルに移籍し、1994年の開幕戦ブラジルGPで5位に入賞して初ポイントを獲得。F1では1997年まで活動し、その後、ル・マン24時間耐久レースなどに参戦。一方、登山は幼いころから勤しんでおり、F1引退後はライフワークとして活動。キリマンジャロなど世界の名だたる山を登頂している。自転車はロードレースの選手として参加し始め、現在は自身の運営する「TeamUKYO」でチーム監督を務めている。

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