【新車のツボ61】ポルシェ・ボクスター 試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 最新ポルシェは以前にもまして、より速く快適になった。前記のように厳密なエンジンの位置はクルマによって微妙にちがうが、エンジンをボディの後半に置いてリアタイヤを駆動するというところは共通している。最新ポルシェは例外なく、専門用語でいう"トラクション"が先代比で飛躍的に高まっている。トラクションとは日本語で「前進力、推進力」とでも訳すべき言葉で、つまりは後輪のグリップ力と安定性が高まった。最新の911やケイマンだと、アマチュアが少し勇気を奮うくらいではリアタイヤは地面に根を生やしたようにドーンと安定しきっている。

 建前としてはそれだけ安全・安心に、エンジン性能をムダなく速さにつなげている......ということが、ワタシ程度の"下手の横好き"にとって最新911やケイマンは「乗せていただいている感」が強い。アマチュアが下手に振り回すよりも、普通にクルマまかせで走るのがもっともスムーズで、結果的にも速い。

 ただ、スポーツカーはレーシングカーではない。絶対的に速い遅いよりも、普通の人間が一般公道で走るときにも、ちょっとばかり工夫の余地が残されていたほうが楽しいし、各部の手応えや路面感覚もより濃いほうが楽しい。その意味で、われわれアマチュアがもっとも「乗っている実感」が味わえる最新ポルシェがボクスターなのだ。

 ボクスターは屋根がないから911やケイマンよりグリップ限界は低く、走行中はなんとなくボディがじわりとネジれる感覚がある(といってもオープンカーとしては世界一級の剛性感だけど)。ただ、そのぶんリアタイヤがねばりすぎず、ホンのわずだけど、アマチュアが「クルマをどう曲がらせるか」を工夫する実感がある。また、ボディの絶妙なネジレによって、タイヤが路面に吸いつく実感を濃厚に伝えてくれる。理屈上の性能アップを即座に実際の走りにつなげられるプロではないワタシは、だから、ボクスターに乗っているときがいちばん楽しい。

 こういう数字にも表せないような微妙なバランスで、味わいや魅力のツボがハッキリと変わるからクルマは面白い。繰り返しになるが、根本のデキがいいポルシェはとくに。

 また、ボクスターはオープンカーとして世界トップ級の高性能だが、同時に「ボタンひとつで片道9秒!」という電動ソフトルーフの開閉速度も世界トップ。しかも50km/h以下なら走行中でも開閉可能なので、これほどその場の気分で躊躇なくルーフを開閉できるオープンカーもほかにない。最新ボクスターはポルシェとしても、スポーツカーとしても、そしてオープンカーとしても、すべてに最強のツボをそろえた名作なのだ。

【スペック】
ポルシェ・ボクスター
全長×全幅×全高:4380×1800×1280mm
ホイールベース:2475mm
車両重量:1380kg
エンジン:水平対向6筒DOHC・2706cc
最高出力:265ps/6700rpm
最大トルク:280Nm/4500-6500rpm
変速機:7AT
JC08モード燃費:――km/L
乗車定員:2名
車両本体価格:643.0万

プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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