【新車のツボ54】VW ザ・ビートル・カブリオレ 試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 ビートルの屋根は前記のとおり、ボタンひとつですべての動作が済むフル電動式。しかも片道10秒前後で開閉して、車速が50km/h以下なら走行中も開閉可能。大きくて重くて硬い屋根が「ガシャンコ、ガシャンコ!」とトランスフォームする電動ハードトップ車だと、開閉時間は速いもので片道20秒ちょいで、走行中に開閉可能なものは基本的にない。実際にオープンカーを使ってみると、この10数秒の時間差と、走行中に開閉できるか......違いはとてつもなく大きい。

 たとえば、信号待ちで「天気がいいから屋根を開けよう」とふと思い立ったときも、作動時間が長く、開閉条件もいろいろある電動のハードトップだと「間に合うか?」と確信がもてず、結局は開けずじまいのことが多くなりがち。しかし、片道10秒、しかも開閉途中で信号が青になってもそのまま走り出せるビートルなら、躊躇なく開けられる。これは言葉にするとわずかな違いでも、1年も乗り続ければ、オープン走行累計時間は、ハードトップと布製ソフトトップでは間違いなく何倍にも広がるだろう。

 また、オープンカーは基本的に「便利さを追求しすぎず、いさぎよいソフトトップのほうが、より贅沢でカッコイイ」とされる。オープンカーはしょせん遊びグルマ。遊びは徹底したほうがカッコイイ。電動ハードトップの便利さを否定するつもりはないが、せっかくオープンカーを買おうと決意したなら、そのツボを余すところなく突いているビートルのような電動ソフトトップを選ぶことを強くオススメしたい。

 ところで、この「ザ・ビートル」はVWの往年の名車をセルフカバーしたレトロデザイン車の2世代目となる。さすが2世代目とあって、オリジナルを彷彿とさせる微妙なボディラインや、そこかしこに散りばめられた昔風のディテールも堂に入っている。フルオープン時に、畳んだソフトトップが背負われたようにハミ出るのも初代ビートルからの伝統的なチャームポイントで、往年を知るオヤジマニアをニヤリとさせるのだ。

 すっかり、屋根の話ばかりなってしまったが、ビートルはさすがドイツ設計だけにクルマ本体もソフトトップも、つくりは堅牢そのもの。同社のゴルフより重い車重に小型車のポロと同じエンジンの組み合わせなので、動力性能も普通レベル以上のものはなく、ツインクラッチという独特の構造のトランスミッションもちょっとギクシャクする。ソフトトップとしては防音性は高いが、普通のボディと比較すればちょっと騒がしくもある。ただ、そういう些細な弱点もまた、これが「復刻したクラシックカー」と考えれば、クルマへの愛着を高めるツボといってよい。

【スペック】
VW ザ・ビートル・カブリオレ
全長×全幅×全高:4270×1815×1485mm
ホイールベース:2535mm
車両重量:1380kg
エンジン:直列4気筒SOHCターボ・1197cc
最高出力:105ps/5000rpm
最大トルク:175Nm/1500-4100rpm
変速機:7AT
JC08モード燃費:17.6km/L
乗車定員:4 名
車両本体価格:375.0万円

プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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