【新車のツボ44】
トヨタ・オーリスRS 試乗レポート (2ページ目)
オーリスRSがそれでいて、運転していても鈍さや退屈をまったく感させないのは、ステアリングが正確できっちりと利くからだ。1時間も走れば、荒れた路面のコーナリングでもステアリング操作が一発で決められるようになる。ロールは小さくないのだが、内側のサスペンションもしっかり伸びて吸いつく。このようにフトコロが深く、その乗り心地に"たおやか"という形容詞を使いたくなる国産車は数えるほどしかない。
ただし、オーリスRSはクルマのスペックに詳しくて(必要以上に?)アツい思いを抱くオタクほど「期待ハズレ」と感じてしまうクルマかもしれない。
3ナンバーボディのハッチバック......という成り立ちから想像されるように、オーリスはVWゴルフを最大・最強のライバルとするトヨタの欧州戦略車である。コンパクトカーやミニバン全盛の日本では最初から大量販売する気はなく、日本車にはめずらしい(?)ことに「走りの良さ」を前面に押し出す。しかも、RSは安価な1.5リッターとはリアサスペンションまで別形式とする凝った設計であるうえに、6速MTも用意するマニアックな内容でもある。
ここまでツボをそそるお膳立てが整えば、そりゃあクルマオタクは「どんなにギンギンに走ってくれんのか?」と期待パンパンである。それなのに、実際のオーリスRSはしゃなりと上品、エンジンパワーもそこそこでシャシーのほうが速い......ものだから「膨らみきった俺のイチモツをどうしてくれる!?」と、うらみ節のひとつも出るかもしれない。
また、本当にスミズミまで高級高精度なタッチでみなぎるVWゴルフと比較すると、オーリスの細かい部分の質感や精度感には、まだまだ改良の余地はある。これが欧州で王者ゴルフとガチンコ勝負するとなれば「もっと頑張れよ、日本代表!」とハッパをかけたくなる気持ちもなくはない。
しかしである。こういうそれなりに高級感があって大人っぽいクルマをMTで乗れる......というだけでも、オーリスRSの存在価値は十分だ。いまの日本ではMTそのものが少数派であり、しかもたいがいは敷居の高い高性能スポーツカーか、高齢ドライバー想定の簡素なグレードがほとんどだからだ。
ド派手なスポーツカーでもなく安物グレードでもなく、こういう「本当の運転好き」のツボを突く国産車は、じつは貴重でありがたい存在なんである。
【スペック】
トヨタ・オーリスRS"Sパッケージ"
全長×全幅×全高:4275×1760×1470mm
ホイールベース:2600mm
車両重量:1270kg
エンジン:直列4気筒DOHC・cc
最高出力:144ps/6200rpm
最大トルク:180Nm/3800rpm
変速機:6MT
JC08モード燃費:14.4km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:225.0万円
著者プロフィール
佐野弘宗 (さの・ひろむね)
1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/
2 / 2