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瀬戸大也はパリ五輪で「大どんでん返し」を狙う 厳しい現実を痛感しても前向きな理由 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Kishimoto Tsutomu/PICSPORT

【ここからが第2章の始まり】

 27日の200m個人メドレーも、自己ベストで優勝したマルシャンらに敗れて6位。瀬戸は「400mを終わった段階で感じていたことですが、全体的にスピード不足を痛感した」と振り返った。

 一方、加藤コーチは「レースの直後に本人と話したけど、そこでもう『これからはこういう強化をしたい』と話してきた」と瀬戸の前向きな姿勢に笑顔が溢れた。

「今回の調整も大也のやりたいようにやらせてきました。それでも、最後は『コーチ、どう思いますか』と聞いてきたので、『アップでも出だしでバーンといっておかないと、レース本番でスカスカして終わってしまうから』と、最後の1週間だけスピード練習を入れてやったんです。元々彼はピッチ泳法というかリズムを重視するタイプなので、今まで我慢していたのを彼のやりたいようにやらせてみました。でも、その調整が難しかったですね。車に例えると、600馬力のエンジンが1000馬力になり、シャーシも全然違ってテクニックも上がっているのに、まだ暖まってないタイヤで走り出して、スピンをして終わったような感じです」

 また、瀬戸自身は、自らの状態をこう分析している。

「日本選手権前の練習パターンは頑張って、頑張った分だけダメージがきて休むという練習をしていましたけど、その時のほうが絶対的なスピードが出ていたんです。今回もすごく練習ができていたという自信はあったし、実際に泳いでみてその成果が出ていると思ったのですが、練習を休まないように(力を)セーブしていたのかもしれない。

 以前やっていた50mのスピードの反復練習も今回は全然やっていなかったので、最後のほうに入れてもらったけど、それも自分のやりたい練習とは少し違っていて。200m決勝の前に平井伯昌コーチとも話して『いいところがなくなっている』と言われたので、これから加藤コーチと話し合って、自分のいいところを引き出しつつ、弱いところを塗りつぶしていく練習をしていけたらなと思います」

 やるべきことが、これまで以上に明確になったという瀬戸は、「もう一度強くなりたい」という強い覚悟があるからこそ、これだけポジティブになれるのだろう。

「パリ五輪までの2年5カ月の挑戦の第1幕が閉じたところ」と言う加藤コーチは、「4分1秒8は出せると考えていますし、秘策はまだいっぱいあります」と笑顔でこう続ける。

「(瀬戸は)レースに向けた集中モードに入っていく時は、ストイックになっていくタイプですけど、今回はパリ五輪へ向けての第1幕の締めなので、『会場の声援を力に変えて泳ぎたい』と音楽を聴くのを止めるなど、新しいことにも挑戦をしていました。本来ならレース翌日に熱を出して寝込むほど自分の力を出しきる能力がある選手ですけど、今回は考えながら、感じながらやったので力を残していたと思います。一緒に練習をしていた後輩たちの士気を高めたりして、人間的にも成長していると思うので、そういったところもこれから生きてくると思います」

「新怪物」とも称されるようになった21歳のマルシャンの強烈な進化を目の当たりにしたこの大会で、瀬戸の五輪金メダル獲得への本格的な挑戦が始まった。

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