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競泳・萩野公介が振り返る現役時代 リオ五輪前は「必要ないからやらない、食べない。いらないものをどんどん削って生きづらいほどでした」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

――東京五輪へ向けてはどういう思いを持って戦っていたのですか。

「日常生活を送っていると五輪以上のピリピリ感というか緊張感はないし、五輪のような場に立つと選手たちは虜になってしまう。東京五輪の開催が決まったのは僕がロンドン五輪で銅メダルを獲ったあとの2013年で、決定を知った時は『あのピリピリ感を日本で味わえるんだ。出てみたいな』という純粋な欲求を感じたんです。2016年のリオで1番になることを経験してからは苦しみながらも、東京開催が決まった時に感じた『出てみたいな』という思いは裏切らないようにと思って。レースや練習から逃げた時はあったけど、それでもやっぱり最後は、自分の『こうしたい』という純粋な思いで挑戦していました。

五輪で何を経験するのかというのは事前にある程度知っているからこそ、今までとは違った何かがあるんじゃないかと思って挑戦をしにいったし、『とにかく出られればいい』という気持ちではなかったですね。つらい、苦しい経験もあったし、自分にとってマイナスな出来事もあったけど、それをすべて乗り越えるくらいのものがあの場にはあると思っています」

――その東京五輪では200m個人メドレーで決勝まで進みました。レースを振り返ってみるとどうですか?

「戦いにいかないと得られないもだし、決勝に出て感じられるものはすごく大きいですね。しかも東京では『金メダルは難しいだろう』と平井先生とも話をしていました。そのなかで『どういうレース展開にするか』という話になった時に、『メダル狙いのレースはできるのではないか』と言われて、じゃあ次にどう泳ぐかとなった時に、僕は小さい時からずっと背泳ぎが得意だったので、勝負のポイントを『平井先生、もしかしたらこれが最後のレースになるかもしれないから、背泳ぎでいかせてください。それが今の僕の水泳で、メダルに一番近いと思います』と言って、背泳ぎでいかせてもらったんです」

――集大成のような思いで臨んだ決勝だったんですね。

「今までの思いとか、平井先生とのこれまでのコミュニケーションとか、いろいろと心のなかに湧いてきた1本でした。トータルのタイムは速くなかったし6位という結果だったけど、メダルを獲りにいくという気持ちは最後まで忘れなかった。『背泳ぎでいかせてほしい』と話した時に平井先生が温かく『いってこい』と言ってくれて、思い描いたレースができました。僕は本当に幸せ者だなと思いましたね」

――そんな納得のレースを経験して今は見る側になりましたが、今年の世界選手権日本代表についてはどう見ていますか?

「今回は自国開催ということで、選考条件をパリ五輪参加標準記録Aに設定して代表選手が多くなりましたよね。本来の純粋な世界選手権の派遣記録で考えると、レベルが低くなっているのが第一印象でした。東京五輪までの期間が4年から5年になったことで影響を受けた選手たちも多くいますが、パリ五輪が来年に迫っているなかで、海外の若い選手たちも伸びてきて世界記録も数多く出てきていることを考えれば、日本チームは少し後れを取っていると感じています」

――自国開催の世界選手権に出られることを来年の五輪に向けての力に変えてほしいですね。

「そうですね。そこは意識してほしいですね。今は世界的に見ても、東京五輪までが5年になったことで、しわ寄せみたいなものが出てきている選手もいますし、休養している選手もいます。だからこそ若い選手がどんどん出てきて活躍が目立っているところもありますよね」

――世界のレベルが上がっているなかで、戦う日本勢は大変かもしれませんね。

「実際に泳ぐ選手は大変だと思います。僕は今、純粋に見ている側でよかったな、なんて思います。僕は水泳マニアというかスポーツマニアなので、みんなの泳ぎを見て感動したいと思っています」

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Profile
萩野公介(はぎの こうすけ)
1994年8月15日生まれ。栃木県出身。
幼少期から水泳を始め、作新学院高校在学時の2010年に日本代表に選出された。2012年のロンドン五輪には北島康介以来となる高校生で初出場を果たし、400m個人メドレーでは銅メダルを獲得する偉業を達成した。2015年には自転車事故で右ひじ骨折を経験したが、2016年のリオ五輪では400m個人メドレーで金メダル、200個メで銀メダル、800mフリーリレーで銅メダルを獲得。その後は不調に悩まされたが、2021年の東京五輪に出場し200m個人メドレーで6位入賞を果たし、大会後に引退を発表。引退後は日本体育大学大学院でスポーツ人類学を学んでいる。

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