【水泳】渡部香生子「今の自分がいるのもたぶん、五輪があったからだと思う」
初めての日本代表で最年少の15歳。しかも舞台はアスリートの夢舞台である五輪。レースでは度胸の良さを見せる渡部香生子もさすがに、最初は不安を感じたという。
「大人の方たちばかりだから、最初はどんな感じなんだろうと思っていたけど、みんなすごくやさしくて。それに同じ高校生の大塚美優ちゃんとかもいたのが(気持ち的に)大きかったと思います」
ロンドン五輪の競泳日本チームのテーマは"チーム力"だった。チーム意識を持つことで選手を集中させ、気持ちよく戦える状況を作り出すためだ。キャプテンの松田丈志を中心にベテラン選手たちが気を配ってくれる状況だったことも、渡部にとっては幸運だった。
最初の合宿(4月)から部屋はずっと仲のいい大塚とだったが、長く一緒に居すぎたことで、ふたりの雰囲気が悪くなったときもあった。年上の大塚が率先して何でもやることが続いたのに慣れ、渡部があまり気を使わないようになっていたのだ。そのときのことを渡部自身も「一緒にいても話さない時期があって、何かおかしいなと思っていたんです」と話す。
それを解決したのは、先輩たちだった。大塚から相談を受けた上田春佳や伊藤華英がアドバイスをくれて、再び競技に集中することができる環境を整えた。
そんな若き高校生スイマーが平泳ぎで頭角を現したのは中学2年のときだった。中1まで個人メドレーを中心にやっていたが、秋に右肩を痛め、苦手だった平泳ぎを克服する目的でやってみると、翌年の全国中学では100mと200mの2冠を獲得。「抵抗の少ない、個人メドレーで通用する泳ぎを作りたかったけど、元々一番苦手な種目だったからこそ伸びしろがあったのかもしれない」と、小1の時から指導している麻績隆二(おみ りゅうじ)コーチは笑う。
さらに翌11年、中3になった4月には国際大会代表選考会で惜しくも世界選手権代表を逃したが、5月のジャパンオープンで、100m日本歴代2位の1分07秒10で200mは歴代7位の2分23秒90と、代表選考会の優勝タイムをも上回って一気に注目される存在になった。
「ジャパンオープンではレース後にインタビューされることも知らなかったので、『すごいな』って驚きばかりでしたね。でもその後は、大会があるたびに呼ばれてインタビューされるのになかなか慣れなくて。『自分より強くて実績のある選手もいるのに、何で自分なんだろう』と思いました。五輪選考会のときもそうなんですけど、100mのあと鈴木聡美さんが代表を決めたのに、なんで私まで呼ばれるんだろうって。いい訳みたいになるけど、そういうので気が散ったというのも少しはありますね」
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