青山学院大、國学院大...増える箱根駅伝ランナーのマラソン挑戦、好タイム連発も早期挑戦にはリスクも (2ページ目)
【厚底シューズが挑戦のハードルを低くした】
学生の競技レベルが急速に上がっているのは、ここ数年のレースや記録会での記録を見れば、容易に理解できる。練習メニューを見ても、質量ともに実業団と比べても遜色のないレベルで、以前よりも高い意識を持って取り組んでいる。
ただ、ここ数年、好結果が続いている理由はそれだけではない。
「厚底シューズというテクノロジーの進化ですね。今は健吾の時代よりも少し(マラソンを走る)ハードルが低くなってきています」
厚底シューズが世界的に初登場したのは2016年リオデジャネイロ五輪といわれる。ケニアのエリウド・キプチョゲ(前世界記録保持者)が試作品を履いて出場し、金メダルを獲得。日本では2018年の東京マラソンで設楽悠太(当時Honda)が16年ぶりに日本記録を更新した際に使用された。
以降、瞬く間に陸上界に広まり、箱根駅伝でも毎年のように各区間記録が更新されている。ハーフマラソンの記録も伸び、マラソン挑戦に対する心理的な壁も下がった。
「健吾が学生の頃、(日本人選手は)マラソンでは2時間8分台、よくても6分台後半が限界でした。でも、平林君、若林君、黒田君が6分台前半を出したように、今は学生でも5分台が見えている。"助力"とは言いたくないですが、テクノロジーの進化で脚の回転数が上がり、ストライドも広がって、より速く走れるようになった。
また、シューズの長所を最大限に利用するための新たなレジスタンストレーニング(筋力トレーニング)も試みられています。実業団の監督も『マラソンのタイムが2分から2分30秒は上がった』と言います。恩恵は非常に大きいですね」
逆に言うと、質の高い練習と厚底シューズの恩恵があれば、持久係数がそれほど高くない選手でもマラソンを走りきれてしまうのだろうか。
「2時間12分前後なら、かなりの学生が走れると思います。でも、6~8分台となると、10000ⅿの持ちタイムと持久係数の高い選手で、なおかつマラソンに特化した練習、例えば35km以降の苦しくて、きつくて、つらい、どうにもならない状態をどうクリアしていくのかといった練習をある程度やっていないと難しいのではと思います」
青山学院大の原晋監督は、よく「残り2.195kmを上げる練習をしてきた」と話しているが、若林の記録はそうした練習に加え、コンディション調整や「これが(現役)最後」という気持ちなど、すべてが合致した成果ととらえることができる。
「若林君のように、好結果を導くさまざまな要素がすべて揃うと、ポンといい記録が出る可能性は大いにあります。それだけの練習は積んできていると思いますので。ただ、問題はそこからですね。私は、マラソンの記録に対する再現性を得るには、総合的な疲労への耐久性が求められると思います」
疲労に対する耐久性とは、言い換えれば、マラソンを走るための練習を積み重ねることで身につく身体の維持能力。専門的にはホメオスタシス(生体恒常性)と言われている。
「マラソンの疲労は呼吸循環、末梢系(筋肉)、内臓器官だけではなく、神経にも及び、いろいろとアンバランスな状態が生まれてきます。でも、身体が成長しつつ、トレーニングにより疲労に対する耐久性がついてくると、リカバリーも早くなる傾向があります。例えば、今年の別府大分毎日マラソンでの平林君の走りを見ていると(2時間09分13秒で9位)、3年時に走った大阪マラソンから復調してきているものの、万全な状態にはまだ少し回復しきれていないのかなと思いました」
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