箱根駅伝 國學院大・前田康弘監督が総合優勝へのカギと捉える山区間の"メソッド対決" 「勝とうと思うなら、戦略的にやらなければ」 (2ページ目)
【102回大会での箱根総合優勝に向かって】
冬のロードシーズンで前田監督が名前を挙げて、奮起を促すのは山上りの5区で苦杯をなめた高山である(区間14位)。2月2日の別府大分毎日マラソンに平林とともにエントリーし、初めての42.195kmに臨む。ハーフマラソンのタイムは卒業する4年生を除けば、チーム最速の1時間01分42秒。長い距離に強く、指揮官の期待値も高い。
「いま、すごく成長しているひとり。このままいけば、高山の2区もあるかな、というくらい強いですよ。別大マラソンでは平林と勝負してくれると、面白いかな。このマラソンで思いをぶつけて、強くなっているところを見せてもらいたいですね」
チームにプラスアルファをもたらす新戦力からも目が離せない。前田監督が即戦力候補として楽しみにしているのは、今春に高知工高から加わる高石樹。昨年12月の全国高校駅伝の1区で区間3位となり、1月19日の都道府県駅伝でも1区で区間6位の力走を見せたばかり。5000mは13分58秒23の自己ベストを持つが、育成に定評のある指導者はタイム以上のポテンシャルに目を向けていた。
「メンタルは13分30秒くらいの強さがありますね。1区の走りを見ていても、沸点(限界)に達してから粘れますから。きっと距離が伸びても、生きるのかなって。高石がチームに面白い化学反応を起こしてくれるかもしれません。箱根駅伝向きのランナーだと思います。大学で一緒に練習してみないとまだわからない部分はありますが、非常にいい選手に育てていく自信はあります」
高校時代は全国で名を馳せるエリートではなかったが、大学の4年間で世代トップランナーまで成長した平林の姿に重ねていた。1年時から学生三大駅伝のすべてに出走し、2年時からは3年連続で箱根駅伝の2区を走ったエースである。
「『第2の平林』のような存在になるといいな、と思っています。それくらいの潜在能力はあるかもしれません。平地でのスピード勝負よりもタフなコースになればなるほど、力を発揮するタイプです。起伏に強くて、単独走でも押していける。山上りでも、2区でもいけそうな気がしています」
前年度に吹き荒れた"國學院旋風"を一過性もので終わらせるつもりはない。常に先を見据えながらスカウトにも注力する。良いサイクルをつくることにも余念がない。箱根後も忙しなく全国各地に足を運んで、見えないところでもライバルたちとしのぎを削っている。「それこそ、もう一つの箱根駅伝ですよ」と冗談まじりに笑う。
「箱根駅伝は面白いゾーンに入っていくと思いますよ。青学さんは山区間を走ったふたりが卒業しますけど、きっと数年のうちにまた出てくるはず。駒澤さん、早稲田さん、中央さんもいますし、うちも追っかけていきたいです。平林たちの涙を無駄にしてはいけないので。来年度も存在感を示せるように、私ひとりではなく、スタッフ、選手たちみんなでチームをつくっていきます。見ていてください」
大学駅伝界の勢力図は、すでに書き換えられている。強豪の一角として、國學院の歴史を変える新たな挑戦が始まった。
著者プロフィール
杉園昌之 (すぎぞの・まさゆき)
1977年生まれ。サッカー専門誌の編集記者を経て、通信社の運動記者としてサッカー、陸上競技、ボクシング、野球、ラグビーなど多くの競技を取材した。現在はジャンルを問わずにフリーランスで活動。
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