箱根駅伝「3強崩し」ならずも、早稲田大・花田勝彦監督がつかんだ確かな手応え「瀬古さんにも『山がいるうちに勝たないとな』と言われました(笑)」 (3ページ目)
【青学大の原監督に初めて言われたこと】
――監督が取り組んできた意識改革は、これまで順調に進んできていますか。
「選手には自分で考え、自分で判断して戦える力を身につけてほしいと思って指導していますが、簡単ではないですね。練習中、よく選手から『設定タイムは?』と聞かれますが、それは監督が決めるものではなく、自分がどういう選手になりたいのかというところから逆算して自分で決めるべきなんです。(箱根のレース中も)本来なら運営管理車からいろいろ声掛けすべきなのかもしれないですけど、私は選手が自分で判断して走ってほしいと思うのであれこれ言いません。レース中、一番アドバイスをしない監督だと思います。
早稲田から世界で戦う選手が出てほしいと思っていますが、五輪や世界陸上で運営管理車はないので、自分で考え、判断して勝負していかないといけない。それが学生に浸透し、考えて走れる選手が10人揃うと、より強いチームになれると思っています」
――意識も含めて、今後は個の成長をより促していくイメージでしょうか。
「私たちが大学生の頃は、『早稲田のエース=(イコール)学生のエース』だったので、そういう選手が出てくると、駅伝でもおのずと結果がついてきます。今は駒澤大や青山学院大のエースが学生のトップなので、優勝争いに参加できていると思うんです。早稲田が優勝争いをするためには、個人の成長が必要になってきます。
例えば夏合宿からはチーム全体で駅伝に向けて練習をやっていく形は変わりませんが、それ以外のところでは、一昨年のようにエース格の選手を海外遠征や合宿などに行かせて、いろいろな経験を積ませたりしたいと考えています。その手始めとして、この2月には第2弾となる駅伝強化のためのクラウドファンディングを予定しています。前回も多くの方にご支援をしていただきましたが、応援してくださる方々の期待に応えられるようなチーム作りをしていきたいですね」
――次のシーズンはダブル山口(智規、竣平)、山の名探偵(工藤)がいて、さらに強力なルーキーが入ってくるので楽しみですね。
「山口智規は、ちょうど私が指揮を執り始めた年に入学した世代で、今春に新入生が入ってくると、4学年すべて、私がイチから指導した部員たちが揃うことになります。また、主要区間の2区の候補がいて、山(5区、6区)も揃っていますし、そういう意味では優勝するチャンスがあるんじゃないかなと思っています。
そこにルーキーの鈴木琉胤君(八千代松陰、昨年12月の全校高校駅伝・1区区間賞)が入ってくるわけですが、彼は渡辺康幸(住友電工監督)レベル、ひょっとしたらそれ以上の力がある選手だと思っていますし、佐々木哲君(佐久長聖、同・3区区間賞)も非常に能力が高い。私が指導してきて意思統一できている3学年とともにチームがまとまっていければ非常に楽しみですね」
――青山学院大の背中をとらえられそうでしょうか。
「早稲田を指導して3年目で、初めて原(晋)さん(青山学院大監督)に『早稲田は来年強いね』と言われたのですが、ようやく意識してもらえるところに来たなと思います。周囲にも『やっぱり早稲田、来たな』と思わせるレースが今回できました。今年はチームの力を出し切っても3位から5位ぐらいだったのですが、次のシーズンでは少なくとも力を出し切ったら優勝争いができる、勝てるよねっていうチームにしたいです。(OBの)瀬古(利彦)さんにも『山(に計算できる選手)がいるうちに勝たないとな』と言われています(笑)」
■Profile
花田勝彦/はなだかつひこ
1971年生まれ、滋賀県出身。彦根東高校を経て早稲田大学へ入学。3年時には箱根駅伝で総合優勝、4区区間賞(区間新)。1994年にエスビー食品陸上部へ進み、1996年アトランタ五輪で10000m、1997年アテネ世界陸上でマラソン、2000年シドニー五輪で5000m・10000m日本代表。2004年に引退後は上武大学駅伝部の監督に就任、同大学を2008年箱根駅伝初出場に導き、以来8年連続で本選出場。2016年GMOインターネットグループ陸上部監督に就任。2022年6月より早稲田大学競走部駅伝監督に就任。
著者プロフィール
佐藤 俊 (さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。
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