【箱根駅伝2025】中野マジックなるか 「日本一諦めの悪いチーム」帝京大は充実の陣容で上位勢に挑む (2ページ目)
【エース・山中筆頭にレベルアップした布陣】
そのための準備は、確実にできつつある。なかでも大きいのが、中野監督も想定できなかったという成長を見せた山中博生の存在だ。
5月の関東インカレ2部10000mでは留学生たちの先頭争いに加わり、28分04秒54で4位(日本人2番手)に入った。出雲は1区、全日本はエース区間の2区でそれぞれ区間4位。5000mの自己記録は14分25秒26だが、前述の関東インカレ10000mで前半の5000mを13分台で入った自信から、全日本では5kmを13分50秒で入って7km過ぎまで青学大と創価大との先頭争いに加わった。
その山中は2区を志願し、1時間6分台で走ることを目標にしている。
「(2区)区間16位だった前回は他校の選手と並んだ時に、スピード面で劣ってしまうのではという考えが頭のなかにありました。でも、5月の関東インカレ10000mをハイペースでいけて、『スピードがないわけではない』ということを体感できました。
ハーフも自己ベストは1時間03分02秒ですが、前回の箱根は1時間2分10秒くらいで通過していたので、力がついた今は1分台で確実にいけます。課題はスピードではなく、ラスト5kmを走るスタミナだと思って練習をしてきました」
チームエントリー16人のうち10000m28分台は9名と例年以上に多い。
「20kmを19歳から22歳のまだ未熟な体でやるとなったら、しっかりトレーニングをさせていかないといけないことは、前々から感じていました。だから『ハーフで力をつけたほうがいいよね』とやった結果、10000mや5000mの記録が勝手についてきただけ」と中野監督は言うが、往路候補も自然と名前が挙がってくる。
前回は3区区間9位で走った柴戸遼太(3年)をはじめ、「今回は1、3、4区を意識している」という前回8区区間8位の島田晃希(3年)、「前回までは1区にこだわってきたが、3区も意識している」という福田、さらに「どこでも行く準備をする」という楠岡らが筆頭候補になるだろう。
「(今季)しっかり走れている選手は、秋にはハーフや記録会には出さないようにしています。もし出していれば、山中なら10000mで27分30~40秒はいくだろうし、柴戸も28分0秒台、島田は28分前半でいくだろうし、楠岡も28分30は切ってくるだろうと思います。でも、箱根に向けた取り組みの過程では、トレーニングを積むことと、休ませることが大切。あえて駅伝に出さなかった選手もいて、ちょっとためさせているような感じです」(中野監督)
1区で順調に滑り出せば、大崩れしない陣容は揃っている。
ただ、前回区間20位と15位だった5区と6区の山の特殊区間は、年末になってみないとわからない状況だ。また、「私の現役時代がそうだったように、5000m、10000mで強ければ、山も上れる。よく誤解されているけど、山(を走れる選手)を作らないのではなく、山しかできない選手は作らない」という中野監督のポリシーもあるからだ。
もっとも前回6位だった復路には、選手たちも自信を持つ。柱になりそうなのは、前回9区区間3位で、今季の全日本も最長区間の8区で区間4位と安定した結果を出している4年生の小林だ。「前回より1分は速いタイムで走りたい」と意識は高い。また、楠岡も上りに適性があるため、復路ならコース終盤が上り基調になる8区を希望している。
出てほしい選手は? と問うと、一気に14人ほどの名前をあげる中野監督。そのなかには4年になって力をつけてきた林叶大や高島大空、黒木浩祐などもいる。
「うちは固定メンバーがないから29日まで悩みたいですね。昔だったら誰をどこに置けるか、あとは誰が走れるのかという感じだったけど、今回は『誰が出ても面白いよな』『誰でもおかしくないよね』という状況を作っていきたいですね」という。
「日本一諦めの悪いチーム」を自負する帝京大。長い指導歴のなかで、高校時代無名だった選手を数多く好ランナーに育成してきた"中野マジック"が、今回の箱根ではどのようなものになるのか。スタートを切るまでわからない。
著者プロフィール
折山淑美 (おりやま・としみ)
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。
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