【箱根駅伝2025】青学大主将・田中悠登は痛みと向き合いラストランへ 「大手町で笑おう、をイメージできるようになってきた」
11月の全日本大学駅伝では5区区間4位とまとめた青学大・田中(左) photo by Jiji Press
箱根駅伝2連覇を目指す青山学院大。1年前、股関節の痛みにより箱根駅伝を目前にしながら出走を果たせなかった田中悠登は、その悔しさを胸に主将として、またランナーとして、学生最後のシーズンを走り続けてきた。全日本大学駅伝では5区区間4位と合格点の走りを見せたが、卒業後はアナウンサー職での故郷のテレビ局への就職が決まっている。箱根駅伝はランナーとしてラストチャレンジ。痛みは引かずとも真っ向競技に向き合い、最後の箱根路を目指す。
【昨年度の全日本後に痛みが発症し......】
11月23日に行なわれたMARCH対抗戦、今年は駅伝シーズンに入って不振だった中央大学が頑張った。これまでの悪い流れを断ちきろうとするかのように。
MARCH対抗戦は10000mの上位10人の合計タイムで競うが、中大が平均28分21秒71で優勝した。
この大会の"仕掛人"である青山学院大は2位。それでも鶴川正也(4年)が最終組で中大の吉居駿恭(3年)、本間颯(2年)との競り合いを制し、27分43秒33の青学記録をマークし、全体1位となったのは見事だった。鶴川は最初で最後の箱根駅伝への思いをこう話す。
「走る区間で区間賞は当たり前なので、2位に1分の差をつける走りをします。最後は大手町で笑って終わりたいです」
大手町で笑おう。
これが今年の青学大のスローガンだ。このフレーズを浸透させたのがキャプテンの田中悠登(4年)である。
田中はMARCH対抗戦では、最終組で走り28分37秒47。11月3日には全日本大学駅伝の5区を走り、区間4位でまとめたものの、かなり苦しい走りだったことを明かした。
「全日本では、走っている間も腰からお尻のあたりにかけて激痛が走っていたんです。なんとかまとめられたという感じでしたが、終わってからMRIを撮って診察していただいても、なかなか原因がわからなくて。ようやく神経系統から来る痛みということがわかって、効果的なアプローチができるようになってきました。痛みは徐々に引いてきているので、最後の強化合宿では100%の練習ができるんじゃないかと、自分に期待しています」
そんな痛みがあったとは......。
これまで何人もの選手たちに痛みとの葛藤、そしてこんな言葉を聞いてきた。
「朝、目が覚めたら、痛みが引いてるんじゃないかと期待して体を起こすんですが......。痛みが突然消えるようなことはなくて」
田中は起床時から痛みと向き合ってきた。
「朝、痛いんですよね。そこから1日がスタートします」
田中の痛みとのつき合いは、1年になろうとしている。去年の全日本では8区のアンカーを務め、國學院大、中大との大接戦を演じ、2位を死守した。この田中の走りを原晋監督は大絶賛。
「あそこで2位と4位じゃ大違い。3位でも違うな。田中が箱根に向けて勢いをつけてくれました」
そして実際、青学大は箱根駅伝で優勝するわけだが、田中は10人のメンバーに入っていなかった。
区間エントリーでは8区に登録されていたが、1月3日のレース当日、田中は自身の「X」のコンテンツ、「中町2丁目ニュース」で、8区の中継所近辺から「【速報】田中アナ、出走ならず」というニュースをセルフレポートの形で伝えていた。
股関節に痛みが出たのは、去年の12月中旬だったという。
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著者プロフィール
生島 淳 (いくしま・じゅん)
スポーツジャーナリスト。1967年宮城県気仙沼市生まれ。早稲田大学卒業後、博報堂に入社。勤務しながら執筆を始め、1999年に独立。ラグビーW杯、五輪ともに7度の取材経験を誇る一方、歌舞伎、講談では神田伯山など、伝統芸能の原稿も手掛ける。最新刊に「箱根駅伝に魅せられて」(角川新書)。その他に「箱根駅伝ナイン・ストーリーズ」(文春文庫)、「エディー・ジョーンズとの対話 コーチングとは信じること」(文藝春秋)など。Xアカウント @meganedo