田中佑美がパリオリンピック準決勝のレーンで考えていたこと「ラッキーで決勝に行けたとしても、それはそれでよくない」 (2ページ目)

  • 和田悟志●取材・文 text by Wada Satoshi

【準決勝に行けたら最高にかっこいい】

── 今回から設けられた敗者復活ラウンドに関しては、どのように受け止めたのでしょうか。

「ネガティブなことを言うと、レース前は『この緊張を2回もするの?』って思っていました。でも、実際に予選を走り終わった直後は『敗者復活戦でもう1回チャレンジできる』ってポジティブに捉えられました。

 ただ、あとでコーチと合流した時に『敗者復活戦がなかったら、直通で準決勝だったよ(※従来のルールだったとしても予選の着順では準決勝を逃したが、タイムで拾われて進出できていた)』と言われて、『(敗者復活ラウンドが)なかったらよかった』って思いました。でも、夜には『これで準決勝に行けたら最高にかっこいいやん!』って思いながら寝ました(笑)。

自然な笑顔も人々を惹きつける魅力のひとつ photo by Sano Miki自然な笑顔も人々を惹きつける魅力のひとつ photo by Sano Mikiこの記事に関連する写真を見る 今、考えると、敗者復活戦ではこれまでにはなかった感情がありました。レースを走る前って『失敗したらどうしよう』『フライングしたらどうしよう』『ハードルにぶつけちゃったらどうしよう』など、いろんなことを考えてしまいます。いつもだったら『こんなに注目してもらっているのに、準決勝に行かれへんかったらどうしよう』と考えてしまったと思うのですが、あの敗者復活戦の時はそんな感情があまりなかったんです。

 自分がやりたいことをやる。自分のレースをする。その結果、準決勝に行けなくても、それはそれで受け入れられる......と、腹が決まっていました。ネガティブな気持ちに引きずられることなくレースに参加できたのは、すごくいい経験になりました」

── 以前に話を聞いた時には、レースに臨む際にネガティブな感情になることが多いと言っていました。今回はそれをポジティブに変換できた、ということでしょうか。

「そうですね。人生って言ったら大きすぎるんですけど、『持ちすぎない』ことが私のポリシーにあります。『人の期待を背負いすぎない』『自分に期待しすぎない』、そして『結果にもしがみつきすぎない』。

 たとえば、今まで何度か髪をロングからショートにばっさり切ったことがあるんですけど、大抵の場合、試合前に願掛けで切るじゃないですか。でも、私はいい結果が出たあとに切るんです。『その結果は過去のことだよね』ってことに自分でしたいんです。インターハイ連覇とかインカレ優勝とか、そういうものをできるだけ背負わずに、私は次に進みたい」

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