箱根駅伝王者・青山学院大が挑む8年ぶりの「三冠」 鬼門の出雲駅伝をいかに戦うのか? (2ページ目)
【鬼門の出雲駅伝で5度目のVを狙う】
そして、いよいよ出雲駅伝の季節がやってきた。青学大の登録メンバーは、次の10人だ。
4年=太田蒼生 鶴川正也 野村昭夢 若林宏樹 白石光星
3年=黒田朝日 塩出翔太 宇田川瞬矢
2年=鳥井健太 平松享祐
さて、このメンバーを原監督はどう配置していくだろうか。参考までに、去年のオーダーを振り返ってみよう。
1区 野村昭夢
2区 黒田朝日
3区 佐藤一生
4区 山内健登
5区 鳥井健太
6区 鶴川正也
5位に終わった昨年のメンバーからは佐藤と山内が卒業したが、一応、昨年の経験者が4人残っている。
出雲駅伝の場合、出だしの1区、流れを決定づける2区、そして逆転を狙って留学生が起用されることが多い6区が重要区間とされる。「三本柱」が重要となるが、日本選手権でその実力を証明した鶴川、ハーフマラソンの距離で実力を証明してきた太田は、留学生相手の6区を任せられる人材である。
また、黒田兄も6区を任せて安心な人材だが、前回の出雲駅伝では2区で駒大の佐藤圭汰と区間賞争いをしたように、2区のコースも熟知している。「駅伝で黒田が外すの、見たことないね」(原監督)というように、もしも1区で出遅れたとしても、黒田兄が2区で立て直すことが可能になる。
さらに中盤以降も青学大の経験が生きそうだ。やや、つなぎ区間的な色彩がある4区、5区に経験豊かな選手を投入し、ここで勝負を決めに来る可能性もある。
ただし、「出雲駅伝は油断がならない」と原監督は話す。
「ひとつのミスが致命傷になりかねないんです。箱根のように20km以上の区間が10区間あれば、ウチの持ち味が発揮できます。でも、出雲は挽回しようとしているうちに、終わっちゃうからね(笑)。その意味で、出雲を勝ちきるのは難しい」
過去の出雲駅伝で、青学大は2012年、2015年、2016年、2018年と4度の優勝にとどまっているが、鬼門とも呼べる出雲駅伝で、どんなスタートを切るだろうか。
もしも、出雲をクリアしたとすると、青学大の三冠の可能性は飛躍的に高まる。距離が延び、区間が増えれば選手層の厚い青学大の優勢の度合いが強まるからだ。
これだけ選手層が厚いのに、しかも今年は期待の1年生が入学してきている。出雲駅伝の登録メンバーには入らなかったものの、鶴川に次いで部内2番目の5000mのタイムを持つ折田壮太(13分28秒78)、さらには飯田翔大(13分34秒20)とスピード自慢の1年生が控えている。
出雲のあと、全日本、箱根へと続いていく道のりで、彼らが存在感を発揮してくれば、さらに青学大は厚みを増す。
毎年感じることだが、青山学院の強さは激しい部内競争から生まれる。朝のジョギングから展開される競争意識、ポイント練習の質。そして11月からは全日本大学駅伝のあと、世田谷246ハーフマラソン、MARCH対抗戦と厳しい部内選考レースが続いていく。ただし、原監督はアップデートを怠っていない。
「去年の12月の頭に、合宿メンバーが感染症で次々に倒れてしまって。これはもう、箱根は無理だなと思ったほどでしたが、これがいい具合に疲労抜きになって、黒田(2区)、太田(3区)が好走したんです。これは強化日程の見直しのヒントをくれました。災い転じて福となす。まだまだ青学は強くなれますよ」
2024年度もまた、青山学院大の強さが見られるのだろうか。
著者プロフィール
生島 淳 (いくしま・じゅん)
スポーツジャーナリスト。1967年宮城県気仙沼市生まれ。早稲田大学卒業後、博報堂に入社。勤務しながら執筆を始め、1999年に独立。ラグビーW杯、五輪ともに7度の取材経験を誇る一方、歌舞伎、講談では神田伯山など、伝統芸能の原稿も手掛ける。最新刊に「箱根駅伝に魅せられて」(角川新書)。その他に「箱根駅伝ナイン・ストーリーズ」(文春文庫)、「エディー・ジョーンズとの対話 コーチングとは信じること」(文藝春秋)など。Xアカウント @meganedo
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