100mハードル・田中佑美は「40人中39位」の挑戦者 一度はあきらめかけたパリ五輪、もう後悔はしたくない (2ページ目)

  • 和田悟志●取材・文 text by Wada Satoshi

【日本選手権の直前にまさかの事態】

「想像力に乏しいのか、自分の関わる範囲、自分の手に届く範囲しかわからないし、興味を持てない。東京五輪はもちろんひとつの目標ではありましたし、努力はしていたんですけど、自分が行けるっていう具体的なビジョンは浮かんでいなかった。そこには真摯な気持ちがなかったと思います」

 以前、インタビューでこのように当時を振り返っていた。東京五輪のスタートラインに立つ自身の姿を想像できなかったからこそ、「悔しいとはあまり思えなかったかもしれない」とも話していた。

 しかしパリ五輪は、「自分の手に届く範囲」にあった。だからこそ、確実に参加資格を得ようと、パリまでの道筋を立てて準備を進めてきた。

 出場資格を得るためには、参加標準記録を突破するのが最も確実だ。だが、ワールドランキングでも出場枠内に入るためにポイントを稼ごうと、海外のレースにも積極的に出場してきた。

 ところが、ランキングで安全圏にいたはずが、いつの間にかボーダーラインのぎりぎりまで下がっていることに気づいた。

「(日本選手権の)数日前に確認したら、想像以上に(ボーダーに)近いところにいて、ほかの選手もまだまだ上がってくる可能性がある。その時には、きついなと思いましたね」

 直前に慌てふためくことのないようにと準備をしてきたはずが、五輪選考のかかった日本選手権を前に、まさかの事態に直面した。

 ワールドランキングでの出場の雲行きが怪しくなり、日本選手権では予選からパリ五輪の参加標準記録12秒77を意識して走った。予選では「スタートを失敗した」にもかかわらず、いきなり12秒91の大会新記録をマークし、好調ぶりを示した(その記録はすぐさま福部真子に塗り替えられたが)。

 最大のチャンスは、準決勝にあった。

 第1組では福部が12秒75をマークし、参加標準記録を突破。田中も、この流れに続きたいところだったが......。

 第2組に登場した田中は、寺田明日香ら実力者に競り勝ち、1着でフィニッシュした。しかし、フィニッシュタイマーは12秒85で止まった。

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