100mハードル・田中佑美は「40人中39位」の挑戦者 一度はあきらめかけたパリ五輪、もう後悔はしたくない (3ページ目)

  • 和田悟志●取材・文 text by Wada Satoshi

【フィニッシュ後、呆然と立ち尽くした】

「正直、もうちょっと(タイムが)出てほしかったなって思いました。ふだんの試合だったら『思ったよりも出ました』と言っていたと思うんですけど、今回は自分に軸があるのではなくて、標準(参加標準記録)に軸があるので、それに至っていないっていう点でタイムが足りない」

 12秒85は田中の自己ベストだったが、「出さなくちゃいけない」タイムには届かず、自己記録の喜びよりも、反省点ばかりが口をついて出た。

 また準決勝は、第1組が追い風0.8mだったのに対し、田中が走った第2組は風にも恵まれなかった(ほぼ無風だったが向かい風0.3mだった)。翌日の決勝が雨予報だっただけに、是が非でもこのラウンドでマークしておきたかっただろう。

「自分がやってきたことをしっかりと見せていくことが大事」

 そう心に決めて、決勝に臨んだ。

 五輪がかかった一戦を前に、緊張に押しつぶされそうになった時には、空を見上げて「雨が降っているな」とまったく違うことを考えることで、気を逸らそうと努めた。

 そして、決勝では思いきって攻めのレースをすることに決めた。

「全体的に、私に足りないのは爆発力。スタートから3台目まででしっかり加速していかないと、7台目より先も見えてこない。なので、『1台目で絶対に怯まない』っていう気持ちでスタートを切りました」

 しかし、やはり緊張はあったのだろう。

「落ち着いてまとめていけば、そういうことは起こらなかったんですけど、全体で2、3台は大きくバランスを崩しました」と、会心の走りとはならなかった。

 優勝した福部が即内定を決めた一方で、田中は2着に終わり、記録も12秒89と参加標準に届かなかった。パリ行きが怪しくなり、フィニッシュ後、雨が降りしきるなか、呆然と立ち尽くした。

 暗雲が晴れたのは、その2日後のことだ。7月2日に世界陸連のワールドランキングが確定し、パリ五輪の出場資格者が公表され、冒頭のとおり田中は39位にランクインした。

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