東京マラソンで鈴木健吾は大迫傑の座を脅かせるか パリ五輪代表、最後の切符は誰の手に? (3ページ目)
MGCでは15キロ手前で途中棄権した其田も持ちタイム(2時間05分59秒)から設定タイムを越えられる可能性がある選手のひとりだ。「夢の舞台」というパリ五輪を走るために、課題のスタミナを走り込むことでしっかりと強化してきた。トップでゴールした自分の姿を常にイメージして練習をこなしているが、それを実現するだけの力は十分に備わっている。
不気味な存在が西山雄介(トヨタ・2時間07分47秒)だ。MGCは準備万端、自信をもって臨んだが、46位に沈んだ。レース後は悔し涙が止まらず、ミックスゾーンではスタッフに抱えられ、泣きながら無言で通り過ぎた。MGCのショックから立ち直るのに少し時間はかかったが、このまま終わるわけにはいかない。「パリしか考えていない。その先のことは考えられない」と、相当の覚悟を持って臨んでくるだろう。
また、MGCで粘って5位になった作田直也(JR東日本)、さらに福岡国際マラソン設定タイムを切れず、悔しさを抱えてラストチャンスに懸ける細谷など、注目すべき選手は多い。
今回のレースは、鈴木、山下を軸に展開することになるだろう。
キプチョゲらが形成する先頭集団から離れ、おそらく第2集団でのレース展開になりそうだ。昨年のMGCで大逃げをしようとした川内優輝(あいおい生命)のような選手は出ないだろう。また、当日は快晴の予定で気温12度前後というコンディションなので、昨年のMGCのような雨と寒さと戦うサバイバルレースにはならないはずだ。
オーソドックスな展開になり、選手は冷静にタイムを追いながら終盤の勝負に備えていくだろう。勝負は、田町を折り返して東京タワー前、増上寺付近から動き出し、40キロの西新橋からラストの競り合いが起こりそうだ。日比谷を越えると、残りは1キロ。ここで誰が生き残っているのか。そして、設定タイムを越えるタイムで走れているのか。練習を積んできた自信の裏付けからの余裕と、そこで得られた強いメンタルを保持する選手が、東京駅前のゴールを駆け抜け、パリ行きのチケットを獲得することになるだろう。
著者プロフィール
佐藤 俊 (さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。
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