大迫傑「東京五輪は他人の価値観に乗っかってしまった」パリ五輪出場については「世間と僕の熱量とには差がある」 (4ページ目)

  • 和田悟志●取材・文 photo by Wada Satoshi

【自分軸で選んだボストンの舞台】

 大迫が出場するボストンマラソンも6メジャーズのひとつ。

 ボストンマラソンは1897年に始まった歴史ある大会。箱根駅伝より20年以上古い。30km過ぎに待ち受ける心臓破りの坂は、ボストンの代名詞ともいえる。

 大迫の「ワクワクするほうを選んだ」とは意が異なるかもしれないが、ランナーなら誰もが一度は出てみたい大会だろう。6メジャーズで唯一、公認コースの条件を満たしていないため、世界記録や日本記録が出ても参考記録となるが、それでも多くのランナーを魅了する。

 女子では現役最速の新谷仁美(積水化学)が、昨年10月のMGCには出場しなかった。最後の1枠を争うMGCファイナルチャレンジも回避する見込みで、3月か4月に再び日本記録にチャレンジするという。

 いまや、五輪や世界選手権が、マラソンの世界最高峰の舞台とは言いきれないのも事実。そのうえで、男女ともに日本のトップランナーの選択は、我々メディアを含むオリンピック至上主義に一石を投じるのではないだろうか(現に大迫はそういった発言もしている)。

 もっとも、一度現役生活を離れたことで、走ること自体の価値観に変化があったようだ。大迫はこうも話していた。

「(以前に比べて)より自分の挑戦のために走るようになった感じがあります。東京オリンピックの前は、どうしても東京を走りたかったのもあって、他人の価値観に乗っかってしまっていた。それで自分自身に無理が生じていた部分があったと思うんです。

 でも、今はそうじゃない。もっと純粋に陸上競技を極めたいとか、この大会を走りたいっていうことにフォーカスできるようになりました。もちろんプレッシャーは毎回毎回あるんですけど、他人軸のプレッシャーではなくて、軸が自分にあるので、そのプレッシャーも含めてチャレンジを楽しめているような感覚が今はあります」

 多くの人が東京マラソンに出るだろうという見立てをするなか、自分軸で選んだボストンマラソンという舞台。そこで大迫はどんな走りを見せてくれるのだろうか。

 我々としては、どうしてもその先のパリ五輪も期待してしまうが......。

著者プロフィール

  • 和田悟志

    和田悟志 (わだ・さとし)

    1980年生まれ、福島県出身。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDoスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。

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