MGCは残暑の厳しさが影響? 神野大地が世界陸上を見て再認識した暑熱対策の重要性 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文・写真 text & photo by Sato Shun

MGCは暑さ対策がカギ】

 調子をレース日に合わせるピーキングは言うほど簡単なものではない。練習をしっかりとこなし、調整を慎重に進行してスタートラインに立っても思うように走れないことがある。

「これがマラソンの難しいところで、レース前、すべて計画どおりにやれましたという人はほとんどいないと思うし、全部やれましたという人ほど走れなかったりするんです。それを前回のMGCの時にすごく感じました。実際、僕は前回の時、練習がかなり出来ていた。でも、スタートラインに立った時、これから戦うというよりはやり切った感が出てしまい、疲弊している状態でスタートしちゃったなという反省があったんです」

 レース前に故障して、休むことでレースではそれが功を奏したケースもある。それが前回のMGCの中村匠吾だろう。スタート前、夏に走り込み、日焼けした選手が多い中、ひとり肌が白い選手がいたが、それが中村だった。中村は故障明けでの挑戦になり、自分ができることに徹して、MGCに臨んだ。その結果、優勝し、東京五輪のマラソン代表の座を射止めた。

「僕は、すべて100%の練習ができた選手が走れるわけじゃないというのを前回のMGCで学びました。今もいろんな情報が入ってきますが、みんな何かしらのトラブルを抱えている。最後に調子の波をうまくもっていけた選手がMGCで勝つ。そこにこだわって調整していく必要があるかなと思います」

 慎重に調整しつつ、ベクトルは常に自分に向けていく。MGCが迫ってくる中、相手の動向は気になるところだが、意識してしまうと冷静に調整するのは難しくなる。神野の耳にもいろんな情報が入ってくるが、「そうなんだ」くらいに押し止めている。

「僕は、誰かに勝つことを意識して戦う感じではなく、自分の状態をしっかりと上げて,ベストを尽くすことが大事だと思っています。自分がベストを尽くした時、相手がその上の領域で走っていたら能力がなかったということで悔いなく終われると思うんです。でも、100%ではない状態でスタートラインに立つと単純に勝ち負けで味わう悔しさとは別の悔しさが生まれるんです。それは絶対に避けたいので、100%に上げた状態でスタートラインに立つことにこだわっていきたいです」

 MGCにピークを合わせるために、あえて練習量を落とすことはしない。神野は感覚的にしっかりと練習をこなし、その練習の流れの中でレースに出ていくスタイルが自分には合っていると考えているからだ。

「調整を進めていく中で、準備はいろいろ考えていかないといけないですね。今、残暑が厳しいので、それが10月までつづく可能性もある。世陸では山下選手が足をつったけど、それはもしかしたら直前合宿を涼しいニュージーランドで行ない、暑熱対策が十分ではなかった影響が出たのかもしれない。MGCは暑さ対策をしっかりしないといけないと今回の世陸を見てあらためて思いましたし、タフなレースになるのは間違いないでしょう」

PROFILE
神野大地(かみの・だいち)
プロマラソンランナー(所属契約セルソース)。1993年9月13日、愛知県津島市生まれ。中学入学と同時に本格的に陸上を始め、中京大中京高校から青山学院大学に進学。大学3年時に箱根駅伝5区で区間新記録を樹立し、「3代目山の神」と呼ばれる。大学卒業後はコニカミノルタに進んだのち、2018年5月にプロ転向。フルマラソンのベスト記録は2時間9分34秒(2021年防府読売マラソン)。身長165cm、体重46kg。

プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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