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「厚底シューズと練習メニューを変更したことが大きい」 マラソン引退を覚悟していたレースで優勝した岡本直己は、40歳でのパリ五輪を目指す (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 共同

【パリ五輪へ向けての準備】

 東京五輪のマラソンは、テレビで見ていた。同年代のキプチョゲ(ケニア)が快走し、金メダルを獲得した。

「テレビで見ていたら、この舞台に立ちたいなと思いましたね。苛酷ななかでのレースであれば、体調さえ合わせることができれば勝負できるんじゃないかなと。ただ、キプチョゲ選手はすごかった。同年齢で、私はベテランと言われるんですけど、キプチョゲ選手はベテランとは言われない。今も世界チャンピオンですし、彼を見ていると、自分ももう少しやっていけるんじゃないかなと思いました」

 今、岡本はパリ五輪を目指し、MGCを戦う準備を着々と進めている。

 東京五輪を最後と考えていたがパリ五輪を狙うべく前向きな気持ちになったのは、2022年の大阪マラソン・びわ湖毎日マラソン統合大会が大きなポイントになっている。2時間8分4秒で5位に入り、今年10月15日に開催されるMGCの出場権を獲得した。

「この時の走りと37歳で自己ベストを出せたことが今も自信になっています」

 このレースでは、同年齢の今井正人(トヨタ自動車九州)も6位に入り、ベテラン勢の熱いレースに多くのファンが喝采を浴びせた。

「私が5位、今井君が6位で、まさかこんな結果になるとは思わなかったです。できすぎと言いますか、うまくいきすぎて、なんかすごくきれいな話になっていました(笑)。今井君は大学の時、5区を走って山の神になって、その頃から意識をしていました。今じゃ同年齢で現役は私と今井君ぐらいしかいなくなりましたが、やっぱり同期には負けたくない。他の選手には負けても諦めがつくところがあるんですけど、同期は言い訳がきかないですからね」

 レース後、ふたりはハイタッチをして、健闘をたたえ合った。その今井もMGCに出場する。今度はパリ五輪の出場をかけて勝負レースを戦うことになるが、「楽しみですね」と岡本は言う。

 そのMGCだが、今回はどのように戦おうとしているのだろうか。

「前回は、最後まで勝負に加われなかったという思いがあるので、今回はまず最後まで勝負したいという気持ちが一番強いです。35キロ以降の勝負に備えて、先頭集団でレースをする。最後の2.195キロは、わりと走れているイメ-ジがあるので、最後まで先頭に残っていれば勝つ自信はあります。これまで国立競技場で走ったことがないのですが、今は一番最初に国立に入っていくイメージをもって練習しています」 

 先頭集団で戦えば、必然的にテレビに映る時間が長くなる。最後までフォーカスされる時間が長くなればなるほど箱根の時に芽生えた「誰かのために」、そして応援してくれる人たちに感謝の気持ちを伝えることができる。

「今回のMGCは、自分のためにというよりも応援してくれる人の期待に応えるために走ります。特に、妻ですね。これまで朝5時半に起きて、夜10時には寝るというある意味、規則正しい生活ですけど、窮屈なこともあったでしょうし、私が合宿で家にいないことも多かった。家ではご飯をたくさん食べるので毎日、栄養バランスを考えて出してくれています。妻に支えてもらって陸上をやれているので、その妻に一番に喜んでもらいたい。その気持ちが最後、ダメになりそうな時、自分を奮い立たせてくれると思うんです。今回は、本当に最後の五輪挑戦になります。40歳でのパリ五輪、凱旋門を走るためにいい結果を妻に報告したいですね」

著者プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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