箱根駅伝の素朴な疑問10【レース前後編】。「往路と復路の選手の違い」「区間エントリーで補欠の主力選手」「シード落ち」などに専門家が回答 (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 松尾/アフロスポーツ/日本スポーツプレス協会

疑問6.今はSNSを利用している選手が多いですが、学生時代に利用することで注意されることはありましたか?

たむじょー 監督に注意された経験があります。僕は、もともと動画をSNSにアップするのが趣味で、中学の時からやっていたんです。お笑いが好きなので、大学に入ってからも陸上関連のお笑い動画などを投稿していました。それが監督の耳に入って、あまりあげてほしくない内容もあったらしく、ある時、監督に「自分が『いいな』と思っても周囲から『なんだ、これは』と見られるのはよくないし、そういう分別がつけられないものはやめなさい」って言われたんです。それでも続けていると、意外と人気になってしまって、その分、監督のところにもいろんな声が届くようになったんです。それで、もうやめてほしいと言われました。そっちで目立つんじゃなくて競技で目立てということだと思うんですけど、監督にそう言われてまでやっていると、さすがに駅伝に使ってもらえなくなるんじゃないかと思って4年の時にやめました。

疑問7.1年生の時に区間のタイムがよくても、上級生になるとタイムが出なくなるケースがあるのはなぜですか?

大後監督 1年生は勢いがある傾向にありますね。しかしながら箱根駅伝だけを走っているわけではありませんから、2年生以降になるとさまざまな目標を設定していきます。最近はスケジュールが過多になる傾向がありますから、箱根駅伝の時期に体調、調子ともピークを迎えられる状況ではない場合もあるわけです。

神野 これは陸上あるあるなんですけど、毎年区間記録を更新できることってほぼないんです。最初は何のプレッシャーもないのでいい結果が出るんですけど、一度区間記録を出すと次から過度の期待を背負うことになります。そういうプレッシャーがかかるなかで走って結果を出すのって、すごく難しいんです。僕は、3年の時に5区で区間記録を出して、4年の時も期待されたんですが、故障あがりだったので、とにかく優勝できればいいやって自分のなかではわりきっていました。もし4年の時、絶好調だったらかなりのプレッシャーがかかっていたと思います。そういう意味では柏原(竜二・東洋大)さんが4年時、記録を更新したのはすごいことで、真の「山の神」だと思いますね。

たむじょー 僕もそのケースでした。自分の経験で言うと、僕の夢は箱根を走ることだったんですが、2年の時に実現したんです。目標を達成したので、自分の気持ちがフワフワして、それ以降は前のように「絶対に箱根を走るぞ」みたいな気持ちが弱くなってしまいました。箱根駅伝は全力で向かわないと届かない目標なので、満足したような気持ちではとてもじゃないですけど、そこにたどり着けません。そのため、下級生の時に目標を達成してしまった選手は、上級生になってタイムが落ちたり、箱根を走れなくなったりすることがあります。あと、陸上競技は毎年、故障も体調不良もなく、いい流れで駅伝までいくのがすごく難しいんです。上級生になって故障して、ぎりぎり駅伝本番には間に合わせて出場したけど、故障明けなので結局タイムが出ないというケースもあります。

疑問8.シード落ちすると、なぜ大変なのですか?

大後監督 シード落ちすると次の年の出場がまったくの白紙であることを突きつけられるわけです。出雲駅伝も出場できません。箱根駅伝本戦に出場するために、10月の箱根予選会にエントリーし、出場権を獲得しなければなりません。その時期までに最低12名、ハーフマラソンをある程度走れるように準備しなければならない。スケジュールや強化で時間的に迫られますし、犠牲にしなければならない要素も多々あります。どの指導者もシード権は獲得したいと思っています。

たむじょー 箱根駅伝の本戦に出るために予選会への出場が必須になるので、1年の練習の組み立てとか、いろんなものが変わってきます。予選会で失敗すると正月に箱根を走れなくなるので失敗は許されません。シード権があれば、予選会を走る必要がないですし、出雲駅伝、全日本駅伝、箱根駅伝と徐々に調子を上げていくことができるんです。でも、シード権がないと10月の箱根駅伝予選会で1度ピークをもってきて、また1月にピークをもってこないといけない。それは決して簡単なことではないので大変です。

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