川内優輝、公務員やめるってよ。
32歳のプロ転向で何が得られるか

  • 酒井政人●文 text by Sakai Masato
  • photo by Getty Images

 それは突然の告白だった。

 成田空港での囲み取材。優勝賞金15万ドル(約1600万円)の使い道を聞かれた川内優輝(31歳・埼玉県庁)はこう答えたのだ。

「来年の4月から公務員をやめて、プロランナーに転向しようと思っていますので、そちらの資金にしたいと考えています」

 集まったメディアの顔色が一気に変わるほど、インパクトのある言葉だった。川内は世界最古の伝統を誇るボストンマラソン(以下、ボストン)で、昨夏のロンドン世界選手権で金メダルに輝いたジョフリー・キルイ(ケニア)ら世界の強豪を撃破。日本人として瀬古利彦以来31年ぶりとなる優勝を飾り、日米で大きな話題をさらった。

ボストンマラソンで優勝し、プロ転向を表明した川内優輝ボストンマラソンで優勝し、プロ転向を表明した川内優輝 そして、長いフライトの間に川内は、空港で語るべきことを考えていたのだろう。早口で話すことの多い川内が、この日は落ち着いていた。

「昨夏のロンドン世界選手権で、自分自身、公務員と両立しながらやれることはやってきたつもりですが、あと一歩で入賞に届きませんでした。自己ベストも5年間更新していません。私は頼まれたサインには、『現状打破』と書いているんですけど、自己矛盾を感じていたんです。自分は『現状維持』ではないか、と。

 仕事を優先しないといけないことを考えると、これまでは挑戦できない部分がありました。私がトップランナーとして世界中を回れるのは、あと10年もない。もしかしたら5年もないかもしれません。あの時プロになっておけばよかったと後悔するのは嫌だと思いました。自分が公務員としてやりたかった埼玉国際マラソンの実現もできましたし、今後何をやりたいのか考えた時に、『マラソンで世界と戦いたい』という思いが強く、このような決意に至りました」

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